ファイナンス 2025年6月号 No.715
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海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー 以上策定し、それを着実に実行していくことが最大の課題です。成長戦略の面では、スリランカがこれまで依存してきた観光業、アパレルや紅茶の輸出、海外労働者からの送金といった伝統的な分野に加え、今後は製造業の多様化や IT サービス、再生可能エネルギーといった分野での更なるビジネス拡大が期待されています。例えば、再生可能エネルギーの分野では、日本の先進的な技術や制度設計のノウハウを活用する余地があります。2022 年には、日スリランカ間で温室効果ガス削減を支援する二国間クレジット制度(JCM)が合意され、スリランカ企業から強い関心が寄せられています。この制度を活用することで、日本の技術を取り入れた低炭素プロジェクトの推進が進み、スリランカの持続可能な発展にもつながっていくと考えられます。また、IT の分野では、若年層の人材としての潜在力が高く、日本企業にとってオフショア開発拠点の候補となり得る存在でもあります。日本への留学、技能実習、特定技能制度を通じた就労への関心も高く、人材関連分野でスリランカへ進出する日本企業が増加しており、今後の人的交流の一層の拡大が見込まれます。スリランカの地政学的な位置付けを踏まえると、日本が掲げる自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の理念に照らしても、同国との関係強化は戦略的な意義があります。中国やインドとの関係をバランスよく維持しながら、日本が信頼を軸とした関与を続けることは、インド洋地域全体の安定にもつながります。日本とスリランカの経済協力関係は、長年にわたり、空港・橋梁・港湾などのインフラ整備をはじめ、保健医療など幅広い分野で ODA を通じて行われてきました。こうした協力は単なる資金援助にとどまらず、現地関係機関との対話を重ねながら、運営や維持管理を含めて取り組む姿勢が徐々に浸透してきたように感じられます。こうした関係の積み重ねが、今日の信頼に基づくパートナーシップの土台になっています。私自身、現地で多くの政府関係者、企業経営者、そして一般市民と接する中で、「日本は信頼できる」「日本人は誠実だ」といった声を度々耳にしました。そこには、過去の支援への感謝に加え、日本製品や企業の姿勢、さらにはスリランカで普及が進むカイゼンや5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)といった日本式経営手法、そして文化や礼儀作法といった価値観全体に対する敬意が込められているように感じます。ビジネス環境の整備は、依然として重要な課題です。経済危機の際には、撤退を余儀なくされた日本企業もありましたが、現在ではおよそ 90 社の日本企業がスリランカで事業を展開しています。今後更なる投資の呼び込みと事業継続を促すためには、予見可能性のある税制や通関制度の整備、手続きの簡素化、それらの適切な運用に加え、ライセンス取得の透明性の向上、紛争の円滑な解決を可能とする司法制度の改善、外貨取引に関する安定的な運用のルールの確立など、制度面での信頼性向上が不可欠です。こうした改革を着実に進めていくためには、日スリランカ両国の官民による緊密な連携がこれまで以上に求められています。スリランカは規模こそ大きな国ではありませんが、日本の技術や経験を活かし得る分野が多く、また日本に対して好意的な姿勢を持つ親日の国でもあります。スリランカが持続的な経済成長を遂げ、政治の安定が保たれた上で、両国の関係が、信頼関係を土台にさらに深まっていくことを期待しているところです。ファイナンス 2025 Jun. 69「JCM1 号案件(ケビティゴレワ太陽光発電所(13.5MW))」(提供元:柴田商事株式会社)

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