ファイナンス 2025年6月号 No.715
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連載海外 ウォッチャーは、透明性と公平性を重視し、現地の事情に寄り添って設計されていることから、誠実な支援国としての評価を受けています。こうした日本の姿勢は、スリランカ政府関係者にとどまらず、一般国民にも広く認知され、好意的に受け止められています。今次の経済危機下における債務再編では、日本、中国、インドの 3 か国が、主要債権国として重要な役割を担いました。中でも日本は、インド及びフランスとともに「公的債権国会合(OCC)」を立ち上げ、スリランカ政府との債務再編交渉の枠組みを整え、議論を主導しました。一方、中国は OCC には正式には参加せず、スリランカ政府と個別に交渉を進める立場を取りました。こうした状況の下、現地でスリランカ政府関係者とやり取りを重ねる中で、日本が誠実かつ中立な信頼できるパートナーとみなされていること、そして債務再編の枠組み作りや交渉を主導してくれることへの期待がいかに大きいかを肌で感じました。2022 年 4 月、スリランカ政府は対外債務の返済を一時停止すると表明し、1948 年の独立以降初めてとなるデフォルト状態に陥りました。この決定は一時的な資金繰りの問題ではなく、長年にわたる財政運営の歪みと構造的な脆弱性が限界に達した結果でした。最大の課題は税収基盤の脆弱さであり、税率の引き下げや免税措置の拡大によって、2022 年時点の歳入した。特に、2019 年に発足したゴタバヤ・ラージャパクサ政権による大規模減税で、歳入の減少が加速し、危機の引き金となりました。また、対外債務の三割以上を占めていたのが、国際ソブリン債(ISB)などの高利・短期返済型のドル建て商業債務で、外貨収入が減少すれば返済は困難になる構造でした。観光と海外労働者からの送金という外貨収入の柱が、2019 年のイースター・サンデー・テロ事件と新型コロナウイルスの影響により大幅に減少。観光客数は 2018 年の約 230 万人から 2021 年には約ドルから、2022 年には 18 億ドルにまで激減しました。こうした中、2022 年 5 月以降、スリランカ政府はIMF との協議を開始し、2023 年 3 月には 48 か月間で約 30 億ドル規模の支援プログラム(EFF)に合意しました。この支援プログラムでは、スリランカ政府は、歳入増加のための税制改革(付加価値税の引上げや個人所得税の累進性強化)、電力・石油公社の経営の効率化やコストに見合った電気料金の設定による国有企業改革、社会的セーフティネットの充実、物価の安定化、金融セクターの安定化、ガバナンスの強化・汚職対策など、多岐にわたる分野で改革への取組を約束しました。もっとも、これらの改革は、特に中間層や貧困層に経済的負担を強いるものも含まれており、国民の間に不満を引き起こすことにもなりました。IMF からの支援を受けるためには、債務持続可能性の確保が前提とされており、スリランカ政府は、IMF支援プログラムに関する協議と並行して、債務再編に向けた債権者との交渉も開始しました。先に述べたとおり、2023 年 4 月、日本の財務省が、インド及びフランスのカウンターパートと公的債権国会合(OCC)を創設し、多国間協議の土台を整えたところから、交渉が本格化することになりました。債務再編の交渉は、OCC に正式参加していない中国をはじめとする他の二国間債権国や、国際ソブリン債保有者などの民間債権者との並行交渉を含む、極めて複雑なものでした。OCC 設立に至るまでの経緯やその背後にあった多国間の調整については、本誌令和 5 年 6 月号掲載の「スリランカの債務再編(デフォルトから債権国会合創設までの歩み)」に詳しく紹介されていますので、そちらを参照いただきたいと思います。2023 年 11 月には、スリランカ政府と OCC の間で債務再編案に関する基本合意が成立しました。このように債務再編の交渉が進展する中、2024 年1 月には、鈴木俊一財務大臣(当時)がコロンボを訪問し、ウィクラマシンハ大統領兼財務大臣との間で会談を行いました。この訪問は、2023 年 11 月にスリランカ政府と OCC の間で基本合意された債務再編を着実に履行させる上で、タイミングとして極めて重要なものであり、スリランカ側の国際的信認を高める後押しにもなりました。さらに、会談では、これまで日本が進めてきた経済協力の成果を確認し、経済再建後の新たな協力の方向性についても意見交換が行われました。この訪問は、日本が国際社会の中でスリランカ支は GDP 比約 8%と、世界第 190 位と低水準にありま19 万人にまで落ち込み、外貨準備も 2020 年末の 50 億 66 ファイナンス 2025 Jun. 4 4 経済破綻と IMF 支援・債務再編

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