ファイナンス 2025年6月号 No.715
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海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー スリランカは、アジアと中東・アフリカをつなぐインド洋の中央に位置する戦略的要衝であり、東西の海上交易の交差点として地政学的に重要な地位を占めてきました。その地理的優位性は、現代においても変わることなく、インド太平洋地域の海上安全保障や貿易・物流拠点の観点から、各国が注視する存在であり続けています。スリランカの外交政策の特徴は、一貫して非同盟・中立を掲げている点にあります。大国間の対立構造に巻き込まれることを避けつつ、各国との協調的な関係を保とうとする多国間バランス外交は、現在も同国の基本方針とされています。その背景には、隣国インドとの微妙な距離感や中国との急速な接近があります。2024 年 9 月に就任したアヌラ・クマーラ・ディサナヤケ大統領は、最初の外遊先として 12 月にインドを、翌 2025 年 1 月には中国をそれぞれ訪問しており、対インド、対中関係においてバランスをとり、これまでの中立路線は基本的に維持していくものと見られています。インドはスリランカにとって最大の隣国であり、宗教・文化・言語の面でも深い歴史的つながりがあります。仏教はインドから伝来したものであり、また南インドにはタミル人が多く居住していることから、スリランカの内戦時には南インドがタミル人支援の拠点になった過去がありました。こうした事情から、スリランカではインドへの親近感や信頼が存在する一方、一定の警戒感も根強く残っています。インドが自国の影響力を強めようとする動きに対し、干渉と受け取られ反発が生じる場面も見受けられます。また、中国の影響力の拡大を懸念するインドに対し、スリランカがインドとその周辺地域の安全保障を脅かすことはしないとの立場を示すなど一定の配慮も見られます。中国との関係は経済協力を軸に近年急速に拡大してきました。中国はスリランカを「一帯一路」構想における重要な拠点と位置づけており、両国は近年、戦略的協力関係を強化しています。特に内 戦終 結 後 の2009 年以降、中国はスリランカに対して積極的にインフラ投資を行い、南部のハンバントタ港やマッタラ・ラージャパクサ国際空港、南部高速道路などの建設を支援してきました。さらに、国際金融センターやビジネス拠点、商業・住宅施設などを備えた大規模経済特区「コロンボ・ポートシティ」が、中国からの投資で、海上埋立地に建設中です。これらのプロジェクトの中には、スリランカ政府による高金利の借入れに依存して進められたものもあり、債務返済が困難となったハンバントタ港は、2017 年に中国企業との 99年間のリース契約により、運営権の大部分が中国側に移る形となりました。この経緯は、いわゆる「債務の罠」外交の典型例として国際的に言及されることもあります。こうした中、日本は長年にわたる経済協力を通じて、スリランカと安定的で信頼に基づく関係を築き、支援を継続してきました。現在では、日本は中国に次ぐ第 2 の債権国(第 3 はインド)で、空港整備や橋梁建設、港湾、保健医療、人材育成など、幅広い分野で有償・無償の資金協力を進めてきました。日本の支援ファイナンス 2025 Jun. 65「ハンバントタ港:現段階では自動車貿易が主で利用は限定的」「建設中のコロンボ・ポートシティ」 3 3 スリランカと主要国の関係

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