ファイナンス 2025年6月号 No.715
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連載海外 ウォッチャースリランカ社会の一つの特徴は、その民族的・宗教的な多様性にあります。人口の約 7 割以上を占める多数派のシンハラ人(主に仏教徒)に加え、北部・東部にはタミル人(主にヒンドゥー教徒)が多く居住し、さらにイスラム教徒やキリスト教徒も一定数存在します。公用語はシンハラ語とタミル語で、民族間をつなぐ連結語として英語が広く使われています。各民族がそれぞれ固有の言語や宗教を保持していることから、文化的な多様性がある一方で、政治的・社会的な緊張や摩擦をはらみやすい構造となっています。1983 年から 25 年以上にわたり、スリランカでは内戦が続いていました。タミル人の一部武装勢力(タミル・イーラム解放の虎(LTTE))は、北部・東部の分離独立を求めて政府軍と激しく戦い、多くの民間人が犠牲になりました。2009 年に政府軍が LTTE を制圧して、内戦は終結しましたが、民族間のわだかまりは根強く残っています。和平後も北部・東部の復興、経済発展は遅れており、経済格差や民族和解は、今なおスリランカが直面する重要な課題の一つです。さ ら に 記 憶 に 新 し い の が、2019 年 4 月 の イ ー スター・サンデー・テロ事件です。復活祭の日にコロンボとその周辺にある高級ホテルや教会で自爆テロが同時発生し、250 人以上が死亡、500 人以上が負傷しました。日本人もこの事件で被害を受けました。イスラム過激派組織の関与が疑われ、事件直後には国全体に緊張が走りました。この事件は、宗教間の共存の難しさを改めて浮き彫りにすることになりました。スリランカは観光資源に恵まれた国でもあります。世界遺産に登録されている、王宮跡が残る巨大な岩山シーギリヤ・ロック、古代王朝の都であるアヌラーダプラやポロンナルワ、仏歯寺を擁するキャンディ、そして南部や東部の海岸部にはビーチリゾートが点在し、欧米などから多くの観光客を集めてきました。外貨収入の柱の一つである観光業は、新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けましたが、現在は回復基調にあり、スリランカ政府は観光立国としての再興を目指しています。2025 年大阪・関西万博では、スリランカは、マリンツーリズムをテーマに据えたパビリオンを出展しています。セイロンティーをはじめ、スパイスやアーユルヴェーダなどスリランカの特産品や文化についても順次紹介される予定です。この機会を通じて、日本国内でもスリランカへの関心がより高まり、相互理解と交流がさらに深まることを期待しているところです。 64 ファイナンス 2025 Jun.「世界遺産のシーギリヤ・ロック」「大阪・関西万博でのスリランカの出展(1)」「大阪・関西万博でのスリランカの出展(2)セイロンティーの香り体験コーナー」

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