海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー 係があります。1951 年に開催されたサンフランシスコ講和会議において、セイロン(現スリランカ)のジャヤワルダナ財務大臣(当時:後の大統領)は、仏陀の言葉「憎しみは憎しみによって止むことなく、愛によって止む」を引用しつつ、日本に対する賠償請求権を放棄する意向を表明し、日本を国際社会の一員として受け入れるよう訴えました。この発言は、当時、日本に対して厳しい処遇を求めていた一部の戦勝国の姿勢に影響を与え、日本の国際社会への復帰を後押しする重要な契機になったとされています。このエピソードは、日本に対して厳しい空気が支配していた当時において、過去の責任を追及するのではなく、建設的に将来の関係を築こうとする姿勢を示した発言として、日スリランカ関係を語る際に今なおしばしば引用されるものです。こうしたスリランカの成熟した対応と友情に対し、日本としても、後に債務危機に直面したスリランカに寄り添い、支援の手を差し伸べるのは、ごく自然な流れだったとも言えます。私のスリランカでの勤務は、経済危機からの国家の再生と重なる 3 年間でした。本稿では、その 3 年間に起こった経済破綻からの再生に向けた歩み、政権交代、そして日本との関わりを中心に紹介したいと思います。正式名称「スリランカ民主社会主義共和国」は、インドの南東に浮かぶインド洋の島国です。面積は北海道の約 0.8 倍、人口は約 2,200 万人。赤道に近く熱帯気候で、緑豊かな自然と豊富な水資源に恵まれています。その自然の美しさから、「インド洋の真珠」と形容されることもあります。かつては「セイロン」と呼ばれており、セイロンティーというブランドを通じて日本でも広く知られる存在です。スリランカの首都は、最大都市コロンボの南東約10 キロに位置するスリ・ジャヤワルダナプラ・コッテです。地理の授業で長くて覚えにくい首都名として記憶に残っている方もいらっしゃるかもしれません。もっとも、行政・経済の中枢機能はコロンボに集まっており、主要な政府機関や企業、大使館、国際機関の多くはコロンボに所在しています。ウィクラマシンハ大統領は、経済危機から脱出するため、IMF に支援を求め、日本を含む債権国とは債務再編に向けた交渉を急ピッチで開始します。その後、IMF からの支援を取り付けるとともに財政健全化に向けた改革等を約束し、債務再編に目処をつけ、経済の立て直しに道筋を付けました。財務省からの出向者として、私自身、この経済破綻の発生から IMF 支援プログラムの承認、そして国際的な債務再編に至る一連のプロセスを現地で経験できたことは、貴重な体験となりました。しかし、2024 年 9 月の大統領選挙では、経済回復を実感できないことへの不満と既存の政治家に対する強い反発を背景に、ウィクラマシンハ大統領は敗北し、汚職の根絶を最優先課題に掲げる左派のアヌラ・クマーラ・ディサナヤケ野党党首が新たに大統領に選出されました。これにより、スリランカの政治は既存の枠組みから大きく転換し、新たな方向へと舵を切ることとなりました。こうしたダイナミックな変化の中でも私が常に感じていたのは、日本とスリランカの関係の奥行きと強さでした。その背景には、戦後から築かれてきた信頼関ファイナンス 2025 Jun. 63「大統領公邸を占拠する国民」(提供元:ジェトロ・コロンボ事務所)「大統領公邸のプールではしゃぐ国民」(提供元:ジェトロ・コロンボ事務所) 2 2 スリランカという国
元のページ ../index.html#67