WAT C H EWAT C H E連載海外 ウォッチャー在スリランカ日本国大使館 一等書記官 中西 孝文*1*1) 本稿は全て筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではありません。加者が大統領公邸のプールに飛び込み泳いでいる光景は、暴力的衝突こそなかったものの、異様かつ象徴的な場面として、国内外に強烈な印象を与えました。赴任直後に滞在していたホテルの目の前を数千人の抗議デモ参加者が行進している様を見て、暴徒化することはなかったものの、街全体に強い緊張感が漂っていたことを今でも鮮明に記憶しています。その後、ゴタバヤ・ラージャパクサ大統領は国外脱出を図り、辞任を表明。国会での選挙でラニル・ウィクラマシンハ首相(当時)が大統領に選出されました。O R EIGNO R EIGNFFRR2022 年 6 月末、私は在スリランカ日本大使館に財務アタッシェとして赴任しました。赴任前からスリランカの社会的混乱は報道等で知っていたものの、実際に現地で目の当たりにした混乱と人々の困窮は、私の想像を超えるものでした。その 2 か月前、スリランカ政府は対外債務の返済一時停止、いわゆるデフォルトを表明し、社会経済全体に大きな衝撃をもたらしました。外貨準備はほぼ枯渇し、食料や燃料、医薬品等の輸入すらままならず、深刻な物資不足と急激なインフレで国民生活は危機的な状況に陥っていたのです。*1燃料不足により、計画停電が日常的に実施され、1日数時間に及ぶ停電も珍しくありませんでした。ガソリンスタンドには早朝から数キロメートルにわたる車列ができ、トゥクトゥク(3 輪タクシー)の運転手が長時間、時には数日間ガソリンを求めて並んでいる光景は、今も脳裏に焼き付いています。大使館の業務もまた、燃料不足により公用車の使用が制限されるなど、少なからぬ影響を受けました。こうした社会経済の混乱の中、転換点となったのが、国民による抗議デモの高まりとその後の大統領の辞任でした。深刻な生活苦への怒りを募らせた国民が一斉に街頭に繰り出し、大統領の辞任を求めて抗議活動を繰り返し、2022 年 7 月には大統領公邸が一時的に占拠される事態となりました。中でも、抗議デモ参 62 ファイナンス 2025 Jun.「ガソリンを求めて並ぶ車列」(提供元:ジェトロ・コロンボ事務所) 1 1 はじめに:経済危機下での赴任海外ウォッチャースリランカのいま ― 危機から再建へ、日本との関係のなかで ―
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