ファイナンス 2025年6月号 No.715
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連載路線価でひもとく街の歴史11 月、宮崎で初めて開業した銀行も同行だった。上(後の橘通一丁目)に再び新築移転する。鹿児島には2 年(2020)に曳家及び復原工事により移築され、延岡の第百四十五国立銀行だ。編入された宮崎エリアを含む鹿児島県域で展開したのが県都鹿児島に本店を構えた第百四十七国立銀行である。明治 14 年(1881)町に出張所ができ、その後 1 年余で支店昇格したとき川原町に新築移転した。明治 43 年(1910)に上別府第百四十七国立銀行の他に第五国立銀行があった。第五国立銀行は本店こそ東京だったが鹿児島県を地盤とした銀行で、対して第百四十七国立銀行は宮崎県域、特に公金収納に強みを持っていた。新生宮崎県の金融面の課題も鹿児島からの独立である。まず、地元資本で初めて開業した銀行は明治 30年(1897)10 月の日向商業銀行である。翌年 2 月、宮崎農工銀行が本町で開業した。地元行とはいえ前者は小規模で、後者は特殊銀行である。そうした中、県が道路事業にかかる起債を第百四十七国立銀行の後身の第百四十七銀行に申請したところ断られてしまう。地元有力行の必要が痛感されたエピソードを受け、当時の県知事の提唱で設立されたのが日州銀行だった。明治 34 年(1901)2 月に川原町で開業した。県は現在の指定金融機関に当たる県本金庫の地位を第百四十七銀行から日州銀行に交代した。県の独立の 18 年後、金融の独立を果たしたことになる。次の課題は小規模割拠の解消である。旧藩単位で散在していた県内 6 行を合併させようとしたが、佐土原、延岡、日向銀行(本店高鍋)が脱落。日向商業銀行と第百四十四国立銀行の後身の飫肥銀行が残り日州銀行と合流。明治 40 年(1907)8 月、新しい日州銀行が発足した。昭和 3 年(1928)、日州銀行は佐土原、日向銀行を含む 7 行と合併して日向中央銀行となった。まもなく日向中央銀行が経営破たんの危機に陥ったため、昭和 7 年(1932)7 月、宮崎県が資本金の 8 割弱を出資して日向興業銀行を設立。日向中央銀行および宮崎銀行(現在の宮崎銀行とは異なる)の資産負債を引き継いだ。これが現在の宮崎銀行の直接の起源となる。現名称は昭和 37 年(1962)に改称したものだ。宮崎農工銀行は建物が現存する。昭和元年(1926)の建築で、日本勧業銀行、第一勧業銀行の支店を経て、昭和 61 年(1986)から県の所有となった。令和現在に至る。鉄筋コンクリート造 2 階建、内部の柱頭にイオニア式の装飾が施された銀行建築だ。宮崎市で初めての百貨店は昭和 11 年(1936)12月に開店した山形屋である。銀行と同じく、鹿児島に本店を置く百貨店の支店だった。当時の中心地である橘通一丁目にあった。戦後、昭和 30 年(1955)の最高路線価地点は橘通三丁目だった。宮崎で初めてのアーケード商店街である大成銀天街や、青空ショッピングセンター(SC)があった場所である。青空 SC は戦後の闇市を起源とする長屋状の商店街で、老朽化が著しく、台風被害で倒壊の恐れがあったため今年(令和 7 年)、宮崎市の代執行で解体・撤去されたところだ。百貨店も鹿児島資本だった中、地元資本の百貨店の設立が当地の悲願となっていた。日向興業銀行の頭取の提案の下、地元財界が出資して百貨店を立ち上げた。宮崎の枕詞の「橘」を冠した橘百貨店である。昭和27 年(1952)10 月、橘通五丁目に開店した。橘通五丁目は街の南北軸の橘通と東西軸の高千穂通が交差するところにある。戦後復興の区画整理で道路が拡幅され、新しい街区が造成されていた。昭和 31 年(1956)、山形屋も橘五丁目、橘百貨店と通りを挟んだ向かい側に移転してきた。街の再構築が進むにつれ、2 大百貨店に牽引されるように街の中心が橘通を北上してきた。最高路線価地点は昭和 32 年(1957)に橘通四丁目、そして昭和 36 年(1961)には橘通五丁目となる。高度成長末期には大型店の進出が相次いだ。昭和48 年(1973)10 月に寿屋が百貨店業態で高千穂通に開店する。同年 11 月、南宮崎駅に宮崎交通がバスターミナルを併設する宮交シティを開店。核テナントはダイエーの宮崎ショッパーズプラザだった。昭和 49 年(1974)4 月にユニードが橘通に開店した。橘百貨店も積極展開を図ったが裏目に出た。昭和 48 年(1973)10 月、都城駅前に高級路線の百貨店を出店した。都城は地元勢の守りが固く駅前商業が振るわなかった地である。開店後 2 年で撤退を余儀なくされた。橘百貨店は昭和 50 年(1975)8 月に倒産、12 月には会社更生法が適用された。再建支援に乗り出したのは全国展百貨店の独立事情 60 ファイナンス 2025 Jun.

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