ファイナンス 2025年6月号 No.715
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00連載海外経済の 潮流 (億ドル)500(出所)BruegelSWIFTからの締め出しを米国が発表(2022/2/27)(ドル/ルーブル)506070809010011012013014015020/120/721/121/722/1(出所)LSEGコラム 海外経済の潮流 156*5) ウクライナ侵略以前にロシア中銀が公表していた貿易統計をもとに、2019 年におけるロシアの輸出総額のうち約 80%を占める EU、中国、アメリカ、*6) 国際経済連携推進センター 原田大輔 “対露制裁の効果と影響”(2024 年 6 月 13 日)次に、ロシアへの経済制裁で「抜け穴」と指摘されているロシアの友好国への輸出拡大について貿易統計から確認する。しかし、ロシアはウクライナ侵略以降、輸出入に関する詳細な統計情報を公表していないため、欧州の民間の調査分析機関である「Bruegel」が集計した輸入国側の統計データ*5 からロシアの輸出状況を確認していく。Bruegel が集計したロシアの輸出状況を見ると、輸出総額は 2022 年 3 月の約 500 億ドルを頂点に足下約270 億ドルまでほぼ半減しているが、コロナ禍前の2019~2020 年頃と同じ水準感となっている。ただ、輸出先の構成にウクライナ侵略の前後で変化が見られる。つまり、アメリカ、EU など経済制裁を科した国・地域に向けた輸出が大きく減少しており、反対に、西側諸国同様の経済制裁を実施していない中国、インド、トルコといった国に向けた輸出が伸びていることがわかる。さらに、ロシアの主な輸出品である鉱物性燃料(輸出全体の 69.5%(2024 年))とそれ以外の財に分けて輸出状況を見ても、輸出額が侵略を開始した時期近辺をピークに減少し、2019~2020 年頃の水準感となっていることや、アメリカ、EU など制裁を科した国・地域で減少し、中国、インドなどで増加するという全体構造はいずれも同様であった。上述の通り、制裁は西側諸国への輸出を減少させたという点で、ロシアの外貨獲得手段の一つである輸出の減少に効果があったと言える。しかし、コロナ前の水準で輸出額の減少が止まったことは、EU や米国といった西側諸国から中国、インド、トルコへと輸出相手国がシフトしたことで、当初想定された制裁の効果が下回ったと考えられる。また、EU 向け鉱物性燃料別輸出の推移について見てみる。今回の制裁では、ロシアの主要な収入源である石油に関して、石油の禁輸及び石油価格上限設定措置が取られている。また、天然ガスについては、禁輸対象でないものの、ドイツへのパイプラインが破壊されたほか、ロシア自らがドイツ向けのパイプラインを停止したことで輸出が減少している。上限設定の措置は、西側諸国の海上輸送サービス提供の実質的な制限によって、市場におけるロシア産石油のリスクプレミアムを上げ、割引なしでは市場で売ることができなくなったことから、ディスカウント価格で友好国に売らざるを得ず、ロシアの輸出収入を抑えることに一定の効果があったとの見方がある*6。3.輸入国側から見たロシアの対外輸出図表4ファイナンス 2025 Jun. 55Jan-2019286.33157.7048.9015.4011.6010.303.806.9017.600.351.702.978.971201008060402019/1 19/7 20/1 20/7 21/1 21/7 22/1 22/7 23/1 23/7 24/1 24/7Feb-2019Mar-2019252.71289.00133.40147.1040.9044.9010.4017.2013.4014.0010.9011.903.205.7010.9011.8016.0020.600.290.541.671.432.412.719.4111.13Apr-2019May-2019301.99284.24148.40138.8051.9053.5021.9019.6010.3010.6012.8011.708.306.9012.707.8018.9019.000.280.412.351.942.332.9111.8710.99石炭石油ガス(図表 3:ロシアの国別輸出総額推移)図表3(図表 4:EU 向け鉱物性燃料輸出額の推移)ルーブル高ルーブル安45040024/725/13503002502001501005019/1 19/7 20/1 20/7 21/1 21/7 22/1 22/7 23/1 23/7 24/1 24/7(億ドル)(出所)Bruegel22/723/123/724/1図表2(図表 2:ドル / ルーブルの推移)韓国、日本、インド、イギリス、トルコ、スイス、ノルウェー、ブラジル、カザフスタンの 38 か国について収集されている。

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