50コラム連載海外経済の 潮流*1) NIRA 総合研究開発機構 田畑伸一郎 “ロシアのウクライナ侵攻 第 3 章:ロシアへの経済制裁とその影響”(2022 年 7 月 8 日)*2) 第一生命経済研究所 西濵徹 “中国はロシアの経済制裁の「抜け穴」になっている模様”(2022 年 4 月 13 日)*3) 2022 年 10 月公表の IMF の World Economic Outlook では、2022 年の成長率予測が -3.4%とマイナスの成長率が改善されていた。*4) 第一生命経済研究所 西濵徹 “ロシアは経済を維持する観点から戦争を止められないのかも”(2024 年 10 月 2 日)2022 年 2 月のロシアによるウクライナ侵略開始以後、欧米を中心とした西側諸国はロシアに対し、国際的決済ネットワークシステム(SWIFT)からのロシア銀行の排除や、ロシアからの鉱物資源の輸入禁止をはじめとした厳しい経済制裁を科している。制裁の発動当初は、こうした経済制裁の効果等により、ロシアの財政面から侵略行為は長く続かないのではないかと見られていたが、侵略開始から 3 年が経過した今も、ウクライナへの侵略状態は継続している。本稿では、足元のロシアのマクロ経済状況について、入手可能な統計等から確認していく。IMF の World Economic Outlook によると、侵略前GDP 成長率(以下、「成長率」という。)を+ 2.9%と予測していたが、ウクライナ侵略開始後の 2022 年 4 月時点での見通しでは、西側諸国による経済制裁の効果を踏まえ、- 8.5%と大幅な下方修正を行った。この制裁のうち、強いインパクトを与えるものとして、(1)ロシアへの輸出禁止、(2)SWIFT からのロシア銀行の排除、(3)石油・ガス等の輸入禁止があげられるほか、レピュテーションリスクを警戒したロシア進出企業の自主的な撤退も特徴的な動きとして指摘されていた*1。しかし、2022 年の実績値は、- 1.2%と IMF の予測よりも小さな悪化にとどまった。2022 年の成長率が事前の予測からマイナス幅を大きく縮める結果となった要因としては、まず、経済制裁の影響で外国人投資家の取引が縮小し、ロシアからの資金流出の動きが強まりルーブル安となる一方で、ロシア政府やロシア連邦中央銀行(以下、「ロシア中銀」という。)が資本規制や大幅利上げによる金利引き締めに動いたことで、金融市場の安定や高インフレを通じた経済の悪化の軽減に繋がったと考えられる。また、経済制裁が行われている中で、EU 諸国が原油や天然ガスなどのエネルギー資源のロシアからの輸入を停止していないことも一因と考えられる。さらに、ロシアとの関係を深める国々への輸出拡大の動きがあることも、制裁の「抜け穴」として指摘されている。*2こうした当初の予測とは異なる状況が重なった結果、ロシア実体経済の落ち込みが緩和された可能性がある*3。その後も、国防費が 2022 年度の 5.5 兆ルーブルから 2024 年度は 10.7 兆ルーブルに拡大する*4 など、ロシア経済は軍需がけん引し成長を続け、成長率は、2023 年は+ 4.1%、2024 年も+ 4.3%となった。プーチン大統領の 2 期目に入った 2012 年以降の成長率の平均が+ 1.7%であることからすると、足下ではロシア経済の伸びが大きいことがわかる。の 2021 年 10 月時点の経済見通しでは、2022 年の実質1.はじめに2.ロシアの実質 GDP 成長率大臣官房総合政策課 調査統計官 野田 芳美(%)(出所)IMF(World Economic Outlook Database)1510-5-10-15 54 ファイナンス 2025 Jun.(図表 1:実質 GDP 成長率の推移)海外経済の潮流 156ロシア経済の現状 ~経済制裁とロシアの貿易~
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