ファイナンス 2025年6月号 No.715
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SPOT (*) 本文中の統計データは、Asian Bond Online を出所とする。なお、ミャンマーのデータは取得不可のため、ミャンマーを除く 9 か国の債券市場規模を集計。1997 年 に 発 生 し た ア ジ ア 通 貨 危 機 を 教 訓 に、ASEAN+3 では、2000 年に二国間通貨スワップ契約から構成されるチェンマイ・イニシアティブ(CMI)が立ち上げられた。その後、スワップ発動の際の当局間の意志決定の手続きを共通化し支援の迅速化を図るための CMI のマルチ化契約(CMIM)締結、資金規模の倍増といった機能強化が図られてきた。そして、2023 年に日本が共同議長を務めた際に議論を主導した「緊急融資ファシリティ」が、今般の会議において正式に創設に至った。同ファシリティは、パンデミックや自然災害といった外生的ショックを起因として要請国に外貨不足が生じている場合に、他のメンバー国が外貨を供給することで迅速に支援を行うものであり、災害の多いアジアにおいて、自然災害等に対する財政金融面でのレジリエンス強化や、迅速な危機対応能力の向上に資するものとして期待されている。今後、各国の国内手続きを経て正式に稼働を開始することとなる。また、グローバル金融セーフティーネットの更なる補完を視野に行われている、スワップベースのCMIMから払込資本型への移行の検討については、今後、IMFに類するモデルを中心に議論を行うことで合意した。CMIM の実施支援に当たっては、ASEAN+3 域内・各国経済のリスクを早期に発見し、各国に改善措置の速やかな実施を求めることが必要不可欠である。このため、域内のサーベイランス機関として、2011 年にASEAN+3 マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)が設立された(その後、2016 年に国際機関化)。日本はその設立以来、事務局長を含めた人材の輩出や拠出金の貢献等を通じて AMRO を支援してきている。今 回 の 会 議 で は、5 月 26 日 に 任 期 満 了 を 迎 え るリー・コウチン事務局長の貢献に対する謝意が示されたほか、次期事務局長である渡部康人氏を歓迎し、各国から AMRO の役割強化への期待が表明された。アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)ASEAN 諸国において、二重のミスマッチ(ドル等の外貨を海外から短期で借り入れ、自国通貨建てで国内の長期融資を実施)が、アジア通貨危機の一因となったことから、その解消のため、ASEAN+3 域内の現地通貨建て債券市場を育成し、域内の貯蓄を投資へ活用することを促進する取組として、2003 年にアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)が開始された。ABMI の開始以来、ASEAN+3 域内の現地通貨建て債券市場は着実に拡大している(例えば、ASEANの現地通貨建て債券市場の規模*は、取組開始から 20年間で 6.8 倍に拡大)。今回の会議では、脱炭素化やデジタル等の新たな潮流を踏まえた「2023-2026 中期ロードマップ」の進捗が歓迎された。また、日本が共同議長として支援している ASEAN+3 債券市場フォーラム(ABMF)へのカザフスタンのオブザーバー参加表明が歓迎された。災害リスクファイナンス(DRF)日本は、国向け災害保険を提供する仕組みである「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」の立ち上げを主導するなど、自然災害に対する財務強靭性の向上に係る取組に積極的に関わってきている。2023 年からは災害リスクファイナンス(DRF)がASEAN+3 財務トラックの「第 4 の柱」となっている。今回の会議では、域内の災害リスクに対する各国の財務強靭性を更に向上させるため、DRF の今後 3 年間のロードマップ(2026~2028 年)の大枠に合意した。本会議は、2000 年以降、ASEAN+3 の会議と合わせて開催されており、日中韓の 3 か国で率直な意見交換を行う重要な場となっている。今年は、中国の藍仏安財政部長、潘功勝人民銀行行長の共同議長の下、各国の経済・金融情勢及び地域金融協力について意見交換が行われ、日中韓の連携の重要性が確認された。II. 第 25 回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議ASEAN+3 マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)2.地域金融協力チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)ファイナンス 2025 Jun. 47アジア太平洋地域における地域金融協力の推進

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