SPOT *19) 取引の相手方だけでなく、自社の取引も調査票に記載するという考え方もあります。もっとも、例えば、証券会社が BB(ブローカーズ・ブローカー)から 1 億円の国債を購入した場合、証券会社から「証券会社による 1 億円の国債購入、BB による 1 億円の国債売却」が報告される一方、BB からも「証券会社による 1 億円の国債購入、BB による 1 億円の国債売却」が報告されるという形で二重計上の問題が生まれます。筆者の理解では、このような問題を防ぐため、現在のような記入ルールが採用されています。*20) 日本証券業協会も、本統計について「店頭売買について集計しており、取引所市場内取引は集計対象外です」と注意を促しています。筆者の理解では、執筆時時点で、債券現物の取引所取引はほぼ存在しません。 https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/tentoubaibai/ten_kai.pdf公社債店頭売買高の最大の特徴は、どのような主体が売買を行ったかがわかることだともいえます。実際、市場参加者やメディアがこの統計を用いる場合、例えば、外国人投資家による売買など、どのような主体が債券を売買しているかということに注目することが少なくありません。本統計は、主に証券会社などが図表 5 のフォーマットで、例えば、都市銀行や外国人など、どのような主体が売買したかを報告します。それを日本証券業協会が集約して公表するため、例えば、外国人投資家は2025 年 2 月に、超長期債を 1 兆 2,406 億円買い越したなどの情報がわかることになります。投資家の区分に関しては、都市銀行など細かく分類されています。投資家の区分の詳細は図表 6 を参照していただきたいのですが、この図表における「売買の相手方」として、都市銀行などの「投資家」と「他の債券ディーラー」が分けられている点に注意が必要です。図表 6 の一番下に「他の債券ディーラー」がありますが、「対顧客取引」と「業者間取引」を分けて把握できるよう、このような表示区分になっています(この詳細は 4.3 節を参照してください)。注意すべきポイントとしては、まず、「その他」に日銀や日本政府が含まれているという点です。また、「都市銀行」や「生保・損保」が独立したカテゴリとしてあるにもかかわらず、投資家として運用規模が大きいとされるゆうちょ銀行とかんぽ生命は「その他」に分類されます(日本政策投資銀行や国際協力銀行などは「その他金融機関」に分類されています)。さらに、例えば、アセットマネジメント会社などが売買を指示していたとしても、信託銀行の信託口座を通じて取引されることで、信託銀行に区分されるなどの可能性があります。そのため、各区分を鵜呑みにするのではなく、実体としてどの区分で分類されているかについて考えることも大切です。3.4 投資家区分証券会社(会員)と特別会員の取引次に、例えば、ある証券会社(会員)から、ある銀行(特別会員)が国債をバンキング勘定で、1 億円買ったとしましょう。この場合、証券会社(会員)は、取引の相手方である銀行(特別会員)が国債を 1 億円買ったと調査票に記載します。しかし、銀行はトレーディング勘定のみ報告する(バンキング勘定は報告しない)ので、銀行(特別会員)はこの取引を報告しないということになります。このように報告しない主体がいることより、この統計における買付額と売付額が一致しないということが起こります。証券会社(会員)と非協会員の取引最後に、会員(証券会社)と非協会員との取引を考えます。例えば、ある証券会社(会員)から、ヘッジファンドなど外国人(非協会員)が国債を 1 億円買ったとしましょう。先ほどと同様ですが、この場合、証券会社(会員)からみると、相手方が国債を買ったということなので、外国人(非協会員)による 1 億円の買付額として調査票に記載されます。一方、外国人は協会員ではないので、日本証券業協会に報告の義務がなく、ヘッジファンドの相手方である証券会社は国債を売っていますが、証券会社の売却額は報告されません。このように、本統計で購入額と売却額がバランスしない理由は、「債券の『売り』・『買い』は、顧客(投資家)を主体に、報告を行う協会員の取引の相手方(顧客(投資家))からみた『売り』、『買い』を記載する」というルールになっており、債券の売買を日本証券業協会に報告しない主体が存在するからです。もっとも、債券市場(店頭市場)のネットワークの中心に協会員である証券会社が存在し、その証券会社が取引の「相手方」を調査票に報告することで、海外の投資家などの非協会員の取引もこの統計は捉えることが可能になっています*19。なお、次章で取り上げますが(日本証券業協会の会員である)証券会社を通じた店頭取引以外については、この統計で補足できない部分が大きい点を理解することも大切です*20。ファイナンス 2025 Jun. 39日本証券業協会「公社債店頭売買高」入門
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