SPOT東京大学 服部 孝洋*2*1*1) 本稿の作成にあたって、伊藤鉄平氏、後藤勇人氏、宍戸知暁氏、日本証券業協会など、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りはすべて筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 東京大学 公共政策大学院 特任准教授*3) 下記を参照 https://sites.google.com/site/hattori0819/平成26年度 3,440.1平成27年度 2,812.6平成28年度 2,365.5平成29年度 2,301.2平成30年度 2,285.4令 和元年度 2,337.1令 和 2 年 度 2,650.4令 和 3 年 度 2,599.4令 和 4 年 度 2,931.3令 和 5 年 度 2,922.2(注)債券現先取引を含みません。(出所)財務省「債務管理リポート」より抜粋(単位:兆円) 公社債売買高に占める国債の割合999.9723.998.4%98.3%696.2567.1766.0756.698.2%98.1%495.9560.8454.9761.7793.21,279.998.1%98.1%98.3%461.3527.31,110.01,177.598.4%98.9%696.01,096.198.6%公社債国債超長期債 長期債 中期債 短期債1,274.91,025.73,386.72,764.0698.4641.5413.5372.92,322.82,257.1389.1435.3471.5498.12,242.02,293.92,605.6459.3439.9429.1525.1500.0441.72,559.02,898.1469.7504.1517.9689.32,881.7524.7564.8本稿は、日本証券業協会が作成している「公社債店頭売買高」について解説を行うことを目的としています。この統計は、債券取引の流通市場(セカンダリー市場)を包括的にカバーする統計であるものの、筆者が知る限り、この統計そのものについて解説した文章は稀少です。健全な資本市場を形成するには、資本市場の全容を明らかにする統計を有することが肝要であり、債券のセカンダリー市場については「公社債店頭売買高」が我が国でその役割を果たしています。本稿の目的は、「公社債店頭売買高」がどのように作られているかという観点から、この統計の特徴を明らかにすることにあります。この統計は、毎月 20 日種メディアが報道したり、金融機関のアナリストがレポートを発行するなど、注目度が高い統計といえます。一方、実際にどのように作成されているかを知らない市場参加者も少なくありません。本稿は、この統計を頻繁に用いる市場参加者やマスメディアに加え、研究者なども想定読者としています。なお、本統計を正確に理解するためには、店頭市場債券市場の基本については服部(2023, 2025)や筆者がこれまで記載してきた債券入門シリーズで説明しているため、筆者のウェブサイトを適宜参照してください*3。また、本稿では、この統計の作成方法に焦点を当てる一方、この統計を用いた分析などは行わない点に注意してください。前述のとおり、公社債店頭売買高は債券市場において大変注目度が高い統計であり、様々な用いられ方をしています。この統計が実際にどのように使われているか例をあげてみてみましょう。まず、この統計を用いることで、債券市場のセカンダリー市場全体の動向やマーケットの規模を把握することができます。図表1は財務省「債務管理リポート」で用いられている図表を抜粋したものです。これをみると、公社債全体や国債の売買額の推移を把握できます。また、図表1では国債に焦点を当てていますが、この統計は、地方債や社債など、国債以外の債券についてもカバーしています(図表1では年度ベースの値を示していますが、この統計はマンスリーデータで公表されています)。債券市場の流動性指標として売買高が用いられることがありますが、公社債店頭売買高を用いれば、国債や地方債、社債などの流動性を測ることができます。図表 2は日銀が定期的に公表している「国債市場の流動性(当日が休業日の場合は、翌営業日)に公表され、各(OTC 市場)及び債券の正確な理解が求められます。2.1 公社債店頭売買高の使われ方の例2.公社債店頭売買高の概要1.はじめに 34 ファイナンス 2025 Jun.図表 1 公社債売買高の推移日本証券業協会 「公社債店頭売買高」入門
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