SPOT*21) IDA21 に係る出資額(約 4,257 億円)に、2005 年の G8 で決定済の重債務貧困国に対する債務救済費用の日本負担分(約385 億円)を加えた総額約4,642 億円の払込みを行うため、国会において「国際開発協会への加盟に伴う措置に関する法律」の一部改正が審議され、本年 4 月11 日に成立した。(参考:世界銀行 HP)(西尾副総裁の写真)(参考文献)財務省(2025年)「MDBs 国際開発金融機関を通じた日本の開発支援」World Bank.(2024a). Poverty, Prosperity, and Planet:2024 Report. Washington, DC:World Bank.World Bank.(2024b). World Bank Annual Report 2024. Washington, DC:World Bank.世界銀行グループの主要機関の一つとして低所得国支援を担う IDA の今後 3 年間の方針を策定し、ドナー国から必要な資金を集めることは、世界銀行グループの最重要任務の一つと言える。開発金融総局の担当副総裁として、IDA19、IDA20 に引き続きこの重責を担い、過去最大の資金規模となる IDA21 の増資交渉を成功裏に取りまとめたのが、西尾昭彦氏である。ドナー各国と支援対象国の橋渡し役となり、両者と協力して開発支援を行っていく姿勢が高く評価されており、堪能な英語・フランス語を駆使し、笑いも交えながら会議をまとめる姿が印象的である。西尾副総裁は、1988 年にヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)により世界銀行に入行して以降、37 年にわたり世界銀行に勤め、IDA 担当局長、南アジア地域担当戦略業務局長、世界銀行研究所業務局長、公正成長・金融・制度(EFI)担当副総裁代行等を歴任。「アキ」のニックネームで親しまれている。世界銀行入行以前は、海外経済協力基金(現JICA:国際協力機構)に勤務。らぬ姿勢を示すとともに、日本が重視する開発課題を国際的に推進していく観点から極めて重要である。こうしたことを踏まえ、厳しい財政状況ではあるものの、IDA に対して約 4,257 億円を追加的に出資することとした*21。これによりIDA21における日本の貢献シェアは 10.5%、米国に次ぐ第 2 位のシェアを維持することとなった。改めて IDA21 増資交渉を振り返ると、日本が政策面と資金面の両面から IDA に貢献してきたことが分かる。日本は、主要ドナー国として増資交渉をリードし、政策面の議論を通じて、IDA の政策パッケージ合意に貢献し、日本の優先分野が IDA21 の重点政策に盛り込まれた。また、資金面の議論では、一時、主要なドナー国と支援対象国が、支援規模を巡って二極化しかねない状況となった際、日本はドナー国と支援対象国の連帯(solidarity)を強調し、支援規模を増加させるための野心的かつ現実的な解決策を提案するなど、事務局とともに交渉妥結に向けて奔走した。その甲斐あってか、支援規模については 1,000 億ドルという大台に達した。増資交渉という 1 年を超えるプロセスを経て合意された IDA21 には、ドナー国、支援対象国、IDA 事務局の交渉当事者たちのそれぞれの思いが込められている。最後になるが、IDA21 は、今回合意された政策面・資金面の支援計画を実施に移してこそ、その目的が達成されるということを忘れてはならない。足下では、世界は様々な地政学的リスクに直面しており、IDA においても、支援を継続していくための中長期の財務の持続可能性の確保が今後の課題となっている。IDA21は 2025 年 7 月から 3 年間の期間で実施されるが、各国が、こうしたリスクや課題に適切に対応するとともに、IDA21 による政策の実施やその成果をしっかりとモニタリングしていくことが重要である。IDA21 がアフリカやアジアをはじめとする低所得国の貧困削減と経済発展に寄与することを願って、本稿の筆を置きたい。4.おわりに 32 ファイナンス 2025 Jun.コラム 3:IDA21 を担当した世界銀行職員:西尾昭彦副総裁
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