ファイナンス 2025年6月号 No.715
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SPOT*14) Resilient and Inclusive Supply-chain Enhancement. 低・中所得国がクリーンエネルギー関連製品の中流(鉱物の精錬・加工)及び下流(部品*15) 一般的に、途上国への政府開発援助(ODA)は、OECD 開発援助委員会(DAC)の基準に基づき譲許的性格を有し、その供与条件(金利や償還期間等)が支援対象国にとって重い負担にならないように設定されている。支援対象国にとってこのような有利な条件が満たされていない場合、一般的に、非譲許的と呼ばれる。*16) IDA においては、「持続可能な開発金融政策(SDFP)」を通じて、支援対象国による透明で持続可能な資金調達等を奨励。具体的には、債務の不履行リスクに対する脆弱性が高い途上国に対し、債務の透明性や持続可能性の向上に関する取組目標(例えば、包括的な債務報告書の作成、国営企業による借入制限の設定等)を設定し、その達成状況に応じて支援を行うこととしている。製造・組立)においてより大きな役割を果たせるよう、G7 が同志国や世銀等と協力する、新たなパートナーシップ。(Infrastructure)の分野の下でも途上国の災害リスク2019 年の日本議長国下の G20 においては、インフラfor money の実現、環境・社会配慮、自然災害に対す2023 年の G20 議長国下においてサプライチェーン強を支援する」との目標が設定されたほか、インフラ管理能力の強化に重点を置くこととなった。ウ  質の高いインフラ・サプライチェーン・サイバーセキュリティ日本は、途上国の持続可能で自律的な発展のためには、発展の基盤となるインフラが良質なものである必要があるとの考えの下、2016 年の日本議長国下の G7で「質の高いインフラ投資」を世界に打ち出した。投資におけるライフサイクルコストを考慮した value る強靭性、透明性、ガバナンス(債務持続可能性等)等の要素を含む「質の高いインフラ投 資に関 するG20 原則」を取りまとめた。今回の増資交渉においても、日本は「質の高いインフラ投資」の重要性を指摘した。その結果、IDA21では、インフラの分野の下で、上記の「質の高いインフラ投資に関する G20 原則」に沿って質の高いインフラへの支援に重点を置くこととなった。また、途上国が持続的に発展していくためには、経済を多角化し、サプライチェーンにおいてより大きな役割を果たしていくことも重要である。低所得国が鉱物資源等のサプライチェーンに強く参画することにより、様々な外的ショックに対する強靱性が高まり、より良い雇用の創出にもつながることとなる。日本は、靱化に係る RISE*14 パートナーシップを推進してきたこともあり、増資会合を通じて RISE の重要性を強く主張した結果、インフラの分野の下で、RISE の支援にも重点を置くこととなった。デジタル化は、通信網等に限らず、電力、水道、交通といった基幹インフラや、保健や教育等のサービスに提供に必要となる社会インフラを含め、あらゆるインフラ整備にあたり重要となっている。今回の増資交渉では、デジタルサービスへのアクセスを高めると同時に、デジタル化がもたらすリスクに対処するため、サイバーセキュリティやデータ保護の観点を考慮するこ と を 求 め た 結 果、IDA21 で は、 デ ジ タ ル 変 革(Digital Transformation)の分野の下で、デジタルインフラへの支援にあたりサイバーセキュリティの観点等を踏まえることが盛り込まれた。エ 債務の持続可能性・透明性途上国が中期的に開発課題を解決する上で、債務の透明性の向上と債務管理能力の強化を伴う形で、債務の持続可能性を確保することが喫緊の課題となっている。近年、新興国や民間債権者による低所得国への貸付が拡大する中、借入国の債務返済能力に十分に配慮しない一部の非譲許的*15な貸付により、途上国における債務の持続可能性への懸念が高まっていたが、ここ数年の新型コロナやエネルギー価格の高騰等により、途上国の債務状況は深刻さを増している。また、担保付貸付やデータ共有の妨げとなる秘密条項を含む不透明な貸付により、借入国の債務リスクの全容を十分に把握することができず、債務の持続可能性の正確な分析が妨げられてきた。こうした状況に対応するため、既に債務状況が悪化してしまった国については債務持続可能性を回復するための取組を行い、過剰債務に陥るリスクが一定程度ある国についても、平時から債務データを公表するなど債務の透明性を高め、債務状況を正確に把握しておくことが重要である。こうした考えの下、日本が、債務の透明性・持続可能性の重要性、特に債務リスクが高い国や過剰債務の国に加えて債務リスクが中程度の国においても、将来を見据えて債務分野での支援を強化する必要性を主張し続けた結果、IDA21では、繁栄(Prosperity)の重点分野の下、支援対象国を拡大し、「債務リスクが中程度以上の59か国において、技術支援、知見共有及びファイナンスを通じて、債務透明性及び持続可能性の向上を支援する」との政策目標が設定されることとなった*16。 30 ファイナンス 2025 Jun.

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