SPOT *13) UHC とは、「全ての人が、適切な健康増進、予防、治療等に関する保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指し、国連総会で定められた「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」の一つ(ターゲット 3.8)として UHC の達成が位置づけられている(厚労省 HP を参照)。なお、12 月 12 日は国連決議で定められた UHC デーとなっている。世界の開発課題は多岐に亘っており、IDA の支援分野も非常に広範なものとなっている。そうした中で、各国ともに、国内への説明も念頭に置きながら、今後3 年間の IDA の支援において自国の優先課題が重点的に支援されるよう、事務局や他の加盟国を巻き込みながら交渉を行っていく。IDA21 においても、どの分野を重点政策とするかについて活発な議論が行われた。日本は、IDA の主要ドナー国として、政策面においても増資交渉の議論を主導した。特に、国際保健、防災、質の高いインフラ、サイバーセキュリティ、債務の持続可能性といった分野については、多くの加盟国がその重要性を認識し、IDA21の重点政策に位置付けられた。以下では、日本が重点を置いた上記政策に着目して、IDA21 の政策面における主な内容を紹介することとしたい。ア 国際保健(UHC、パンデミック)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)*13 の推進をはじめとする国際保健は、戦後早期に国民皆保険制度を導入し医療システムを整備してきた日本として、従来から国際的な開発支援の場において議論をリードしてきた分野であり、日本の経験を役立たせることができる分野である。世界銀行グループでは、2030 年までに 15 億人に質の高い手頃な保健サービスを提供するとの目標に向けて取り組んでおり、UHC の推進を通じた保健システムの強化はその根幹ともいえる。今般の新型コロナ危機からも明らかなとおり、パンデミックの発生は、感染流行国はもとより世界全体の経済・社会に甚大な影響を与え、途上国の成長を阻害する。こうした大規模な保健危機に備えるためには、次なるパンデミックへの予防・備え・対応(PPR)の強化のための継続的な取組とともに、その基盤となる保健システムの強化やUHC の達成に向けた取組を両輪で進める必要がある。今回の増資交渉においてこうした重要性を指摘した結果、IDA21 では、人的資本(People)の分野の下で、UHC の推進を含む質の高い手頃な保健サービスの提供や、保健危機の防止・備え・対応の向上のための支援が重点政策に位置づけられた。イ 防災(自然災害に対する強靭性)防災は、自然災害に多く見舞われてきた日本がかねてより重視してきた分野であり、途上国における防災計画の策定等にあたり、日本が知見を共有してきた分野である。昨年 11 月の国連気候変動枠組条約第 29 回締約国会議(COP29)の開催に注目が集まるなど、近年気候変動分野への関心が高まっているが、気候変動対策においては、温室効果ガスの排出量削減に資する再生可能エネルギー等の導入といった「緩和」の観点に加え、気候変動の影響を最小限に抑えるための防災や強靭性といった「適応」の観点に注目することが重要である。途上国においては近年、気候変動や異常気象等の影響により、自然災害の頻度と深刻さは増大しており、ここ数年を振り返ってもミャンマー地震(2025 年)、トルコ・シリア地震(2023 年)、リビア洪水(2023 年)、パキスタン洪水(2022 年)、トンガの火山噴火と津 波(2022 年)など、災害は後を絶たない。こうした中、自然災害に強靱なインフラ整備とともに、防災計画の策定等の制度面・政策面での支援が益々重要となっている。今回の増資交渉において、防災をはじめとする「適応」や自然災害に対する強靭性の重要性を強調した結果、IDA21 では、地球(Planet)の分野の下で「少なくとも 50 か国において適応や強靱性に関する政策(1)重点政策ファイナンス 2025 Jun. 29図 3:IDA21 の 5 つの重点分野と 4 つの分野横断的視点国際開発協会(IDA)第 21 次増資について
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