ファイナンス 2025年6月号 No.715
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SPOT 国の民間セクターを支援する「民間セクターウィンドウ」等。ターの運営・制度の観点から各国の政策・制度環境を評価。世界銀行グループは、加盟国からの出資金をもとに、こうした様々な開発課題に直面する開発途上国に対して融資等を行う世界最大の国際開発金融機関(MDB)である。また、居住可能な地球における「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有の促進」をその使命に掲げ、4 つの中核機関がそれぞれの役割に沿った支援を実施している*4。本稿では、世界銀行グループの 4 つの機関の中で、最も貧しい国々に対する支援を担う国際開発協会(IDA:アイダ)の概要と、昨年12月に合意されたIDA 第 21次増資(IDA21)の交渉における議論について紹介したい。IDA(International Development Association)は、加盟国からの出資金を主たる原資として、所得水準が特に低い開発途上国に対して超長期・低金利での融資や贈与を行う機関である。IDA が低所得国に対する支援を安定的に行っていくためには、加盟国からの継続的な資金拠出が必要となることから、IDA では通常 3 年間を一つの期間として政策面・資金面での支援計画が立てられ、こうした支援枠組みや加盟国からの追加拠出の規模等に関する交渉(これを「増資交渉」と呼ぶ)が行われる。昨年 12 月に妥結した IDA21 増資交渉は、2025 年 7 月から 2028 年 6 月までの 3 年間を対象に必要資金を確保するためのものである。IDA の財源は、加盟国からの出資や融資による貢献のほか、過去の IDA 融資に対する支援対象国からの返済などの内部資金、債券発行による市場からの資金調達等となっている。こうした集められた資金が、IDA21では78 か国の低所得国の開発支援に活用される*5。IDAによる支援は、使途が定められていない国別配分と、特定の使途に配分される特別枠*6に分けられる。国別配分は、政策・制度環境の良好度(パフォーマンス)*7が高い国、人口が多い国、所得水準が低い国に重点的に配分されるよう設定された計算式(PBA:Performance-Based Allocation)に基づき各国に割り当てられる*8。こうして割り当てられた資金は、支援対象国の所得水準や債務の状況を踏まえて、融資又は贈与の形で供2.IDA の概要世界銀行グループ概要ファイナンス 2025 Jun. 27国際開発協会(IDA)第 21 次増資について国際復興開発銀行(IBRD)○中所得国及び信用力のある低所得国を対象○市場から調達した資金等で長期融資を行う国際開発協会(IDA)○低所得国支援に特化○加盟国からの出資金や市場から調達した資金等で超長期・低利の融資・贈与を行う○通常3年ごとに増資○担当副総裁:西尾昭彦国際金融公社(IFC)○市場から調達した資金等で、途上国の民間企業に対する投融資を行う○IFC長官:マクタール・ディオップ(セネガル)多数国間投資保証機関(MIGA)○途上国向けの民間投融資について、政治リスクなどの非商業的危険に対する保険を提供○MIGA長官:俣野 弘表 1:世界銀行グループの概要1. 世界銀行グループとは途上国における貧困の削減・繁栄の共有の促進を使命とする世界最大の援助機関。世銀グループを構成する中核4機関は右表の通り。このうち、最も歴史のあるIBRD(国際復興開発銀行)は、第二次大戦後の1945年に設立(加盟国数:189)。2. 組織本部:ワシントンD.C.総裁:アジェイ・バンガ(米)(2023年6月-)(マスターカードCEO等を歴任)3. 日本と世銀の関係日本は1952年に世銀(IBRD)に加盟。かつては最大の借入国の一つであった。世銀融資は、東海道新幹線や東名・名神高速道路、黒部第四水力発電所等の基幹インフラの整備や、製鉄業等の近代化に活用。現在、日本は、世銀グループを構成する各機関において、米国に次ぐ第2位の出資国。*4) 世界銀行グループのより詳しい活動内容については、財務省(2025)や World Bank(2024b)を参照。*5) IDA20 の支援対象国は 75 か国であったが、IDA21 では脆弱性が高い一部の小国(ベリーズ、エスワティニ、スリナム)の参加が認められたため 78 か国に拡大。なお、IDA の支援対象国は、原則、一人当たり所得水準(GNI)が 1,335 ドル以下の国(2025 世銀年度)だが、この水準を超えても、市場調達が困難と認められる国等は支援を受けることができる。*6) 地球規模課題・地域課題への取組を促進する「グローバル・地域機会ウィンドウ」、危機対応を目的とする「危機対応ウィンドウ」、最も貧しく脆弱な*7) 年 1 回行われる国別政策・制度評価(CPIA)の実施結果に基づき判定。CPIA では、経済運営、構造政策、社会的包摂性に係る政策、及び公共セク*8) 直近の IDA20 期間中の 2024 世銀年度においては、IDA の資金の約 7 割がサブサハラアフリカ地域、約 2 割が南アジア地域に活用。

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