SPOT は、世界的に見ても一般的である。一方で、日本では、先の大戦中に材料の金属が不足したことにより陶器の貨幣を製造した実績がある。この陶器の貨幣は、製造されたものの実際には使用されず「幻の貨幣」と言われている。国が貨幣として製造を計画したものなので貨幣であると思うが、市中流通をしていないそれを「お金」と言えるか甚だ自信が無い。『金属の塊』 ちなみに貨幣は、国が日本銀行に交付した時点で発行となり、金融機関を通じて世の中に出まわることで、晴れて「お金」となる。つまり造幣局内にあるそれは、誰がみても外観は「お金」であるけれど、制度上は金属の塊でしかない。つまり「お金なのにお金ではない」という不思議を通り越して矛盾があるような表現のそれとなる。このあたりの詳細は別の機会があれば紹介したい。*10) 発行時の価格の内訳については、従来から製造原価を明らかにすることで貨幣の偽造を助長するおそれがあることから公表していない。記念貨幣などにご興味がある方は『独立行政法人造幣局オンラインショップ(JAPAN MINT ONLINE SHOP)』にアクセスして下さい。https://www3.mint.go.jp/front/おいても諸外国の取組みなどを参考にして、現物の通貨の新たな役割を研究していきたいと考えている。また、趣味趣向が多様化している中で、過去に比べると若年層の記念貨幣への興味が低くなっていることも懸念しており、興味が高まるような貨幣の発行も研究課題のひとつである。さて、本稿の冒頭「金貨って儲かるのか?」という質問についてだが、まず記念貨幣の流通市場における価格の構成要素は、次のような計算式が成り立つのではないかと考えている*10流通市場の価格(売値)=額面金額+素材価格+プレミアム(発行数量等)+売却者利益金貨の場合には、素材の金の価格が構成要素として大きく、かつ、変動幅が大きい傾向となるであろう。このため、当該質問には「金貨の価格は変動するので、購入した時期によって売却益がでることもあるが、損失を被る場合もある」という趣旨を回答していた。ここ数年、金地金価格が上昇傾向にある中で、この答えは質問者が期待するものではない(多分「儲かります」という回答を期待されていた)と認識しているが、良い面に加えて必ず悪い面を説明するのは、私の財務省職員としての宿命なのかもしれない。記念貨幣の購入は「お金をお金で買う」という言葉にしてみると少し不思議な響きをもつけれど、お祝いすべき事柄や歴史的な出来事などの朽ち果てない記憶の記録として手にしてもらえることを願っている。記憶そのものはお金で買えないけれど、その輝きを留めておく手段として、これほど洒落たものもそうはない。ファイナンス 2025 Jun. 252025 年日本国際博覧会記念(大阪・関西万博)記念一万円金貨表面:ミャクミャクと日本政府館 裏面:2025 年日本国際博覧会ロゴマーク『溶かしたり延ばしたり』 造幣局の広島支局では、只の金属を、貨幣という国の基礎のひとつであり、経済活動などに欠かせないものに変身させるため、高温の「炉」で溶かしたり、貨幣の厚さに成形するための「圧延設備」で延ばしたりしている。工場見学を無料で受け入れているため、機会があれば熱き現場を是非ご覧頂きたい(造幣局ホームページで見学予約の方法などを紹介している)。『コイン通りと神』 使い古された貨幣などを溶かしたり延ばしたりしている造幣局広島支局の正門前の道は「コイン通り」と呼ばれている。その通りの商店街では「金持神に会える街」として PR しており、お金を造っている造幣局の存在が地域振興の一助になっているといえる(造幣局が金持神ということではないらしい)。地方を盛り上げる一助となる記念貨幣の発行貨幣の雑学『金属ときどき陶器』 貨幣の素材が金属であること
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