ファイナンス 2025年6月号 No.715
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果的に予防医療の役割を果たしたり、子育てや介護に対する負担をシェアできたりします。昔の日本では当たり前にあった関係性ですが、何か新しい形で再構築できないかなと常に考えていますね。森田室長 そうですね。おっしゃる通り、社会保障は共助の集合体なんだと思いますが、あまりに規模が大きすぎて、どう助け合っているのか実感できないのが課題だと思います。本当は、みんなで各々の能力に応じて貢献し、必要なときは助けてもらう素晴らしい制度であるはずなのに、一方では負担が大きく取り上げられ、他方では給付ばかり受けているように取り上げられる。制度的にも現役世代と高齢者、支える側と支えられる側との分断が生じているように感じています。ミクロでは色んな助け合いがそこら中にあると思いますが、財務省の人間としては物事をマクロで見ることも重要であり、その両者をどのように折衷するのかが悩みどころです。黒野補佐 確かに、社会保障はお金を介したやり取りであって、助け合うのにお互いが知り合い同士である必要がないので、経済効率の面でも精神的な負担の面でもとても優れている点があると思います。ただ、それだと引き換えに心理的な充足感はないですよね。例えば、私と石山さんも広い意味では制度上は助け合っていますけど、お会いしたときにそんな実感はなかったのではないでしょうか。制度として設計するのは難しいですが、両方無いとちょっと寂しくなるんじゃないかなと思うことはありますね。石山アンジュさん すごく共感します。シェアリングエコノミーがいいなと思う、もう一つの理由はそこです。資本主義経済の中でも、より人柄を感じられる、顔が見える仕掛けだと思うんです。そこにすごく可能性があると感じています。クラウドファンディングみたいな一人ひとりが参加できる「意思ある再分配」のような仕組み、社会保障に当てはめられるかはわからないけど、そうした視点は必要かなと思います。森田室長 すごく通じるところがあると思います。それをどう制度に落とし込むかは、僕らが考えていかなければなりませんね。石山アンジュさん 近年、一人当たりの接する相手がSNS 上で増えているように見えて、実は個々人はとても分断していると思うんです。私は数年間、渋谷のシェアハウスと大分県にある田舎の古民家との二拠点生活をしていました。大分では仕事や年齢に関係なく、色んな人との地域の繋がりがありましたが、今の時代、特に都会に居るとなかなか無いことですよね。生活において自分と交わらない人が格段に増えた結果、知らない層の人たちへの寄り添う力や思いを馳せる機会がなくなっていることも分断を生んでいる要因の一つではないでしょうか。岩﨑広報室長 人と人との繋がりが大切である一方、今、人口が減っているじゃないですか。特に地方が顕著だと思いますが、シェアリングエコノミーで何かできることはありますか。石山アンジュさん 大いにあると思います。人口減少により財源としての税収が減り、公共サービスを維持していくのが難しくなる。そうした中で、シェアリングエコノミーが公助を補完する役割を果たすのではないかと思います。例えば過疎地では、おばあちゃんが病院に行きたくても、バスや電車は廃線、お客さんがいないからタクシーもいません。そんな時、隣町に行く誰かがついでに「送って行くよ」っていう市民の共助があれば解決できる。介護や子育ても、助けが必要な人たちを結びつけてコミュニティの中で協力していくことが、地域の持続可能性を高めると思います。最近特に、人口をシェアする発想の「関係人口」の人口減少と持続可能性について写真 3 主計局社会保障企画室 室長 森田 茂伸 12 ファイナンス 2025 Jun.

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