連載PRI Open Campus *2) 行政データ利活用の詳細については、『ファイナンス』(2023年3月号・7月号)の「PRI Open Campus」を参照。PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 43財務総研の最近の取組に関するご説明を受ける黒田元所長ファイナンス 2025 May. 93を行っていってほしいと思います。まさに「言うは易く、行うは難し」ですが、財務総研には、そうした積極的な役割を果たしてほしいと、強く期待しています。また、地道な作業ですが、質の高い統計を作り続けるということも、「シンクタンク」としての重要な役割だと思います。財務総研が作成・公表している「法人企業統計」は、継続性・信頼性がとても高い統計で、日本銀行のスタッフも高く評価していました。私自身も、IMF(国際通貨基金)やアジア開発銀行で、世界各国の統計を見てきましたが、日本の統計の品質は極めて高く、誇って良いものだと思います。――統計調査に加えまして、財務総研では、輸出入申告データ等の行政データを、外部の研究者の協力も得ながら、分析に活用する取組を進めています*2。米国の内国歳入庁もそういった取組を行っていますが、日本の行政データは網羅性・信頼性の高さが大きな強みになると思います。例えば、米国の貿易統計は、後から何回も修正されていて、信頼性が高くありません。港湾や空港を使わないと輸出入ができない日本と異なり、隣国と地続きの米国では、当局が輸出入を網羅的に把握するのが難しいのだと思います。また、日本では、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理センター)によって、貿易関連の手続が電子化・オンライン化されている、ということも奏功しているのではないかと思います。余談ですが、私が大蔵省に入省した1960年代の頃から、既に関税局には最先端のコンピューターが導入されていて、大規模なデータの処理を行っていました。私は当時、大臣官房秘書課に配属されていて、人事管理を担当していたので、そのコンピューターの余っているパワーを借りて、人事記録カードを入力すれば、「こういう経歴の職員を探したい」というときに、何百枚~何千枚というカードを手作業で探す手間が省ける、と思い立ちました。それで、関税局からコンピューターを借りて、人事記録カードを入力してみたのですが、組織が再編されて部署の名称が変わっていたり、名称が変わっていなくとも所掌事務が変わっていたりして、人事管理で使うにはとてつもなく複雑な処理が必要であるということが判明し、途中で諦めてしまいました。(笑)話が逸れましたが、行政データの利活用は積極的に進めるべきだと思いますし、行政データを使うことで、新しい研究分野を開拓することもできると思います。例えば、経済安全保障というのは、現在、最も注目されているトピックの1つだと思いますが、これまであまり研究されてこなかった分野でもあると思います。輸出入申告データを使って、経済安全保障のような、新しいトピックの研究を進めるということも、財務総研や財務省全体の「シンクタンク機能」の強化に大きく貢献するのではないかと思います。――財務総研も行政機関の中の研究所である以上は、様々な制約の下で研究活動を行う必要があるという事情があります。黒田先輩が総裁を務められた、アジア開発銀行や日本銀行にも、アジア開発銀行研究所(ADBI)や日本銀行金融研究所といった研究所がありますが、こうした研究所は、それぞれの組織の中で、どのような立ち位置だったのでしょうか。ADBIは一定の独立性が担保されていたと思います。そもそも、アジア開発銀行の本部はマニラにあるのですが、ADBIは東京にあるので、地理的にも独立しています。もちろん、ADBIは毎年、研究計画をマニラの理事会に提出して、承認を得た上で研究を実施して
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