ファイナンス 2025年5月号 No.714
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連載PRI Open Campus修*1)で講師を務めたことも印象に残っています。こ3.財務総研の未来 92 ファイナンス 2025 May.*1) 財政経済理論研修の詳細については、『ファイナンス』(2023年1月号)の「PRI Open Campus」を参照。所長時代のエピソードを笑顔で話される黒田元所長――財務総研は財務省の中で「シンクタンク機能」を発揮することが期待されていますが、どのようにすれば、財務総研、ひいては財務省全体の「シンクタンク機能」を高めることができるとお考えでしょうか。欧州では、フランスでも、ドイツでも、英国でも、財務省に相当する組織が、予算・税制を通じて、特定の政策分野だけでなく、内政全体を統括する機能を持っています。例えば、フランスの経済・財務省は巨大な組織で、傘下にある国立統計経済研究所(INSEE)が経済分析を担当していますし、ドイツや英国の財務省も、長きにわたり、経済見通しの作成や政策の効果検証を行ってきました。日本では、こうした機能は、経済企画庁が担っていたのですが、経済企画庁がなくなってしまった後は、この機能を担う組織が不在になっているように感じています。「では、財務省がやれば良い」という議論には、日本では中々ならないのではないかとは思いますが、財務総研が、財政制度等審議会や政府税制調査会とは少し離れた立場から、外部の研究者を交えた冷静な議論を行って、分析結果を発信することはできるのではないかと思います。昨今の日本における議論を見ていると、財政政策や金融政策を批判したり、嘆いたりする人はたくさんいるのですが、「こういう政策を行えば、こうなっていた」という説得的なcounterfactual(反実仮想)を示して、冷静に議論できる人がとても少ないように思います。米国の著名な経済学者であるポール・クルーグマン氏は、「show me your model」と度々仰るのですが、単に「あれが悪い」、「これが悪い」と言うのではなく、「自分の分析モデルはこういうモデルで、このモデルによれば、あなたの政策とはこういうふうに違うので、これくらい違った結果になる」というようなことを説明しないと、建設的な議論にはならないと思います。ですから、財務総研も、単に現状を批判したり、嘆いたりするのではなく、「こういう政策を行えば、こうなっていた」というようなcounterfactualを冷静に分析して、前向きな政策提言また、それまでは、税制や国際金融の仕事ばかりをしてきたので、アジアや社会保障等、研究会のテーマ自体が私にとっては新鮮で刺激的であり、毎回の報告を聴くのがとても楽しみだったのを覚えています。特に「アジアの持続的発展と安定に関する研究会」は、会長を務められた斎藤次郎氏(元・大蔵事務次官)が大変力を入れておられて、研究会の議論の内容は『アジアの持続的成長は可能か:アジア各国の人口、食糧、エネルギー、環境の現状と展開方向』(1998年)という本にもまとめられています。その他には、職員向けの研修(現・財政経済理論研の研修は、私が入省した頃から行われていたのですが、私は研修を受けるタイミングで、オックスフォード大学に留学していたので、研修を受けられなかったのです。私が入省した頃は、同期の大半が法学部の出身者だったので、こういった経済学の研修はとても有益だったと思いますが、最近の財務省では、経済学部の出身者も増えているのでしょうか。――近年も、経済学部出身の入省者は多くない状況ですので、財政経済理論研修を通じて、経済分析能力の向上を図っています。

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