ファイナンス 2025年5月号 No.714
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海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー ファイナンス 2025 May. 873.財政の透明性とガバナンスの向上2.金融安定化策め、開発パートナーの支援をもとに、社会支援のための制度枠組みを強化するためのロードマップの策定や、IMFにより2019年に実施された公共投資管理評価(Public Investment Management Assessment(PIMA))の勧告に基づく公共資産の管理の強化も想定されている。歳入面では、物品税や手数料、インボイスの電子化の取り組みを含む、税務行政の強化に向けた取り組みが継続され、2025年にはGDP比0.3%の歳入の増加が見込まれる。翌年以降は、健康や環境への外部性を考慮しながら、課税ベースの拡大と税支出の削減を目指す。また、年金制度の持続可能性を回復するため、エルサルバドル政府は2022年の年金制度改革に伴う潜在的な財政コストを抑制するとともに、公的・私的を問わず、すべての年金関連の支払いに対する公的保証から生じうるリスクを定量化し、政策決定に役立てるため、年金制度の持続可能性に関する定期的な評価を再開し、独立した保険数理評価を2025年7月末までに公表する予定。さらに、この評価をもとに、IMFの技術支援のもとで、年金制度の持続可能性を確保するため、財政上のコストと偶発債務を抑制する改革案が2026年2月に公表されるとともに、2026年から実施される予定。なお、エルサルバドル政府は、ドル化体制の下では財政政策によってショックに対応する必要があることを認識しており、財政の資金不足が生じた場合には、公務員人件費以外の優先順位の低い歳出の更なる削減に合意している。また、資金不足が大きい場合には、手数料やその他の税金の引き上げ、課税ベースの拡大等の改革を加速させることによって歳入を確保することも検討されうる。銀行セクターは、自己資本比率は15.4%と法定最低水準の12%を大きく上回り、不良債権比率は総資産の1.9%と低水準、収益性比率もおおむね堅調である。他方で、法定準備は、預金の12%にとどまっており、パンデミック前の20%程度から大きく減少している。その結果、2024年10月時点での超過準備は、預金の1.2%程度にとどまっている。また、銀行による国債保有は、2024年10月時点で総資産の11.6%と、パンデミック前の水準(6.1%)を大幅に上回っており、ソブリン・バンク・ネクサスのリスクが高まっている。中央銀行は、IMFプログラムの下で、金融システムの流動性枠組みの改善に向けた取り組みを実施する。まず、中央銀行は、2025年1月末に法定準備を預金の12%に引き上げる規制を発効させた。さらに、流動資産要件の追加的引上げにより、流動資産は、2025年6月末に預金の13%、2025年12月末に預金の14%、2026年6月末に預金の15%と段階的に引き上げられる。なお、流動資産要件の追加的な引き上げ分は、米国債、少なくとも2つの格付機関からA以上の格付を得ているその他の証券、または厳格な引き出し規則に則った、事前承認済みの高格付金融機関に預け入れられた制限のない米ドル預金、といった高品質で流動性の高い資産に限定される。さらに、金融セクターの監督および規制の枠組みも見直される予定。具体的には、新たな金融安定法が採択され、IMFによる技術支援の勧告および国際基準に沿って、早期介入、破綻処理、危機管理、預金保険の枠組みが2025年6月末までに改善される予定。また、2025年12月末までには、中央銀行の財務基盤を強化するため、資本再編計画が採択される予定。財政責任法が2020年に停止されたことに伴い、財政の透明性についての取り組みが後退していたが、エルサルバドル政府は、議会が承認した2025年度予算と、公的年金の費用と年金債務の利払い費用の予想額を含む3ヵ年財政計画を公表した。その他にも、エルサルバドル年金機構に関する財政データおよび財政フローと債務残高に関する情報、2023年および2024年の予算のすべての修正、公的企業の所有権に関する情報等を公表した。さらに、プログラム下では、(1)2025年3月末までに公的企業の包括的な情報の公表、(2)現在、米州開発銀行の技術支援を受けて策定中の、新たな持続可能な財政責任法(Fiscal Sustainability and Responsibility Law(FSRL))の2025年5月の議会承認、(3)2025年3月末までの公共契約の定期的な公表、および公共契約を獲得したすべての法人におけ

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