ファイナンス 2025年5月号 No.714
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エルサルバドルについて はじめにWATCHEWATCHEOREIGNOREIGN連載海外 ウォッチャー 国際通貨基金(IMF) エコノミスト 澤田 亮太郎FFRR筆者は、2023年7月より、国際通貨基金(IMF)西半球局で勤務している。2024年12月にIMFとエルサルバドル政府との間で、私がIMFチームの一員として交渉に携わった、長期融資制度(Extended 米ドルの新しいIMF支援プログラムにスタッフレベルで合意。その後、2025年2月にIMF理事会にて同プログラムが承認され、スタッフレポート*1が公表されたことから、本稿では、スタッフレポートに沿ってその主な内容を紹介したい。なお、本稿で示す見解は、筆者の個人的な見解であり、IMFやその理事会、マネジメントの見解を代表するものではない。多くの日本人におけるエルサルバドルについてのイメージは、ビットコインの活用に積極的な国、もしくは大規模な刑務所を建設し、多くのギャングを収容している国だろう。特に巨大刑務所(スコット)は、日本の複数のメディアが内部の潜入報道を行っており、目にされた読者の方もいるかもしれない。また、他の中米諸国同様、コーヒー豆の生産地のイメージもあるかもしれない。エルサルバドルの面積は、2.1万平方キロメートルで九州の約半分と、中米の中で最も面積が小さい国で 84 ファイナンス 2025 May.*1) IMF Country Report No. 25/58 “El Salvador Request for Extended Arrangement under the Extended Fund Facility”ある。公用語はスペイン語で、人口約640万人の国民の大半は、スペイン系白人と先住民の混血である。2001年にドル化が進み、国内では主に米ドルが使われている。名目GDPは353億米ドル、一人当たりGDPは5,344米ドルで、一人当たりGDPでアジアの国々と比較すると、ベトナムとモンゴルの中間くらいである。主な貿易相手国は米国や中米で、アメリカ等への移民からの家族送金がGDP比で24%と、中米の他の国々と同様に非常に高い。エルサルバドルは、ギャングによる殺人及び暴力行為が後を絶たず、歴史的に殺人率の高い国だった。しかし、その後2019年に就任したブケレ大統領による非常事態宣言の下でのギャング等の大規模な取り締まりによって、治安が劇的に改善。2024年には、10万人当たり1.9人と中南米で最も安全な国にまで殺人件数が減少した。(図表1)2022年3月から続く非常事態宣言により、長期間にわたり国民の権利が保障されないことについて、複数の市民社会グループや国際機関から懸念が示されている一方で、この急速な治安の改善は、国内の経済活動の活発化とコロナウイルス感染症によるパンデミック後の大幅な海外観光客の増加をもたらしている。Fund Facility(EFF))の下での、40か月、約14億海外ウォッチャーエルサルバドルに向けた新しいIMFプログラム

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