SPOT 70 ファイナンス 2025 May.*10) ここでは簡単化のため、デフォルトした場合に0円になるとしていますが、厳密には、残余財産などがあるため、0円になるとは限らない点に注意が*11) 厳密には発行手数料などがあるため、100円以上の値になりますが、ここでは単純化しています。必要です。引所グループ(2022)やハル(2016)を参照してください)。したがって読者は、100株の50%である50株のロングに相当するリスクを有していると解釈できます。読者は、このリスク量(デルタ)をゼロにするため、50株をショートします(デルタ以外のリスクは残る点に注意してください)。前述のとおり、株価が下がる(上がる)とデルタが下がり(上がり)ますが、例えば、株価が10円低下して、デルタが50%から40%へ低下したとしましょう。このことは、読者が保有しているオプションのリスク量が50株分であったところ、40株分へ減少するということです。注意すべきは前述のとおり、読者はデルタをゼロにするために、株式を50株分ショートしていた点です。株価が低下して、読者が保有するオプションのデルタが40株分になってしまいましたから、読者は、デルタ・ニュートラルという意味では、10株分、多くショートしている状況を意味します。そこで、読者は10株買うことで、ショートのポジションをカバーして50株から40株のショートへ減少させます。この取引により、読者のポジションのデルタが再度ゼロになります。次に、株価が再度上昇して150円に戻ったとしましょう。この場合、またコール・オプションは再びATMに戻りますから、読者が有するコール・オプションのリスク量は、50株分のデルタに戻ります。しかし、読者は、現在、40株をショートしているため、読者の有するポジションのデルタをニュートラルにするために、10株売りなおして、50株分のショートに戻します。上記の流れを整理すると、読者は保有しているオプションのリスク量をゼロにするために、株価の変化に伴い、株式の売買を行ったわけですが、140円で10株購入して、150円になって10株を売ったため、この取引でキャピタル・ゲインが得られます。このようにオプションを保有している際、株価が変化することで、保有するデルタが変化し、そのリスクの調整をすることで、オプションの保有者は利益を上げることができます。詳細は服部・日本取引所グループ(2022)をご参照いただきたいのですが、株価がより大きく動けば、オプションの保有者の利益はより大きくなります。したがって、ガンマ・トレーディングは株価の変動が大きければ利益も大きくなる取引といえます。3.1 どのようにオプション部分と社債部分を分解するか3.CBリパッケージ債の概要前節では、CBに内包されるオプションをヘッジファンドなどが投資しているという説明をしました。そもそも、CBはなぜオプション部分と社債部分に分解可能なのでしょうか。この部分は金融の技術として面白い部分だと考えており、少し紙面を割いて、まずはそのメカニズムについて直感的に説明し、具体的に商品に落とし込んだCBリパッケージ債の組成方法について議論します。まず、次のようなケースを考えてみましょう。A社が100円のCBを発行し(クーポンはゼロとします)、読者がこのCBを100円出して購入したとします。話を簡単にするため、このA社の株価は100円とし、転換価格も100円とします(実際のCBはアップ率があるため、「転換価格>株価」となりますが、これは簡単化のためです)。このCBにはデフォルトのリスクがあり、一定確率でデフォルトし、仮にデフォルトしたら発行体からは1円ももらえない、すなわち、CBの価値が0になるとしましょう*10。その上で、読者はデフォルトのリスクは取らずに、このA社のオプション部分だけに投資したい(前述のオプションの経済性のみ享受したい)と考えているとします。それでは、読者はどのようにすれば、このCBのオプション部分にだけ投資することができるでしょうか。ここで、読者は筆者に次のような契約を持ち掛けるとしましょう。まず、ある日本の企業がCBを100円で発行して*11、読者がCB発行のタイミングでそのCBを買ってきます。そして、CBの購入後、読者は筆者に、このCBをすぐに100円で売ってしまいます(図表3の左図)。ただし、読者にとって都合がよいタイミングで、100円で買い戻したい、この契約のコストとして、20円を支払いますよ、とします(ここでの20円はあくまで単純化のための例です)。この買い
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