ファイナンス 2025年5月号 No.714
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SPOT (出所)筆者作成(出所)筆者作成株価図表2 コール・オプションの損益図:デルタとガンマの関係(2)オプションの価値傾き(デルタ)権利行使価格図表1 コール・オプションの損益図:デルタとガンマの関係(1)オプションの価値傾き(デルタ)株価(1)株価株価(2)ファイナンス 2025 May. 69権利行使価格*9) 本節では原資産が株であることを前提に説明をします。転換社債(CB)入門注意を促したい重要な点は、オプションのリスク量(デルタ)は、株価(原資産)の水準に依存して変わるため、株価の変化によって、ゼロにしていたリスク量がゼロから乖離するという点です。図表1がコール・オプションの価値を示しています(コール・オプションの価値については「基礎編」やオプションのテキストを参照してください)。前述のとおり、デルタは株価(原資産の価格)*9が動いたときにどの程度損益が動くかを意味するので、この図における太いラインの傾きがデルタに相当します。この図から視覚的に、株価の水準でデルタ(傾き)が変化することがわかります。例えば、株価が(1)などと低くなると、太いラインの傾きも小さくなるので、読者が保有するオプションのリスク量(デルタ)が小さくなることがわかります。一方、図表2で示されている通り、株価が(2)のように高い場合だとどうでしょうか。今度は太いラインの傾きが大きいので、読者が保有するオプションのリスク(デルタ)が大きくなることが分かります。このように株価が変わることで、読者が保有するリスク量(デルタ)が変わります。ちなみに、このように株価の水準にリスク量が依存するのは、この図表で示される通り、オプションの価値が非線形性をもっているからであり、オプションの商品性からくるものといえます。ガンマ・トレーディングでは、株価が動くたびに、変化するリスク量(デルタ)をゼロにするために株式を売買します。詳細はBOX1をご覧いただきたいのですが、株価が変動すると、オプションの保有者にとって有利な方向にリスク量が動きます。そのため、株価が動く中で、リスク量をゼロにするため、株式の売買を繰り返すことで、利益を得ることができます。前述のとおり、ガンマとは株価が変化した時にどれくらいデルタが動くかですが、このトレーディングがガンマ・トレーディングと呼ばれる理由は、株価が動くたびにデルタが変化し、そのリスク量を調整する中で収益化する戦略だからといえます。株価が大きく動けばより収益が上がるという意味で、ボラティリティを収益化する戦略ともいえます。ここまで、オプションを保有することのメリットについて言及してきましたが、一方で読者はオプションを購入するためのコストを支払っています。オプションにはタイム・バリューがあり、この価値は時間と共に低下していきます。その意味で、時間の経過とともに損失が出ますが(これをセータといいます)、実際の変動がこのコスト以上に大きければ、オプションの保有者は利益を得られるということです。したがって、CBに内包されるオプションのボラティリティ(インプライド・ボラティリティ)に比べ、実際の株価の変動がより大きければ、ガンマ・トレーディングにより利益を上げることができます。BOX1 ガンマ・トレーディングの具体例このBOXでは、具体例を用いてガンマ・トレーディングを説明します。例えば、現在の株価が150円であり、読者は(権利行使価格150円の)コール・オプションを100株分保有しているとします。このオプションはアット・ザ・マネー(ATM)のオプションであり、そのデルタはおおよそ50%になります(この理由は服部・日本取

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