ファイナンス 2025年5月号 No.714
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SPOT *5) CBの場合、発行手数料などにより元本以上(例えば100円以上)の発行になっているため、例えば、102.5円で購入し、100円で償還などという形*6) 例えば、Bloombergの記事である「冬眠続く個別株オプション市場、7年ぶり値付け業者参入で萌芽の兆し」(2024年12月9日)では、「規模のあるが典型です。現物株市場を持つ先進国の中で個別株オプションの取引が少ないのは日本くらい」というコメントが紹介されています。転換社債(CB)入門ファイナンス 2025 May. 672.2 CBの投資家の分類2.3 CBに含まれるオプションの性質債券であり、(株式に転換されたり、デフォルトしなければ)満期に元本(例えば100円)で償還されることが予定されている商品です。損失が限定的であるという意味で、個人投資家に適しているという見方もあります(もちろん、デフォルトして元本が棄損する可能性がある点には注意が必要です)*5。また、「応用編」で説明したとおり、実際のCBには多くのオプションが含まれていますが、機関投資家だけでなく個人も投資することから、国内で発行されるCBはよりシンプルな設計がなされる傾向があります。一般的に、筆者の理解では、CBの投資家は下記のように分類されます。(1)ヘッジしない機関投資家(アウトライト投資家)(2)ヘッジする機関投資家(3)個人投資家(国内で公募する場合)(1)についてはCBに内包するオプションのデルタ・リスクやクレジット・リスクなどをヘッジせずにロングする機関投資家です(デルタやクレジット・リスクについては後述します)。ヘッジせずにロングすることを「アウトライト」ということから、アウトライト投資家と表現されることもあります。特に、CBに特化して運用するファンドも存在しており、CBファンドなどと呼ばれます(CBファンドには後述するヘッジするファンドも存在します)。CBにはインデックスもあり、インデックスをトラックするファンドもあります。もちろん、通常の債券ファンドがCBを買うこともありますし、マルチアセット・ファンドがCBを買うこともありえます。(2)については、主にヘッジファンドなど、CBに内包するオプションのデルタ・リスクやクレジット・リスクをヘッジしてCBに投資する機関投資家です。ファイナンスのテキストなどでは、CBを購入して、そのデルタ・リスク量分の株式をショートすることなどをCBのヘッジと説明されます(例えば、ぺデルセン(2018)ではこのようなヘッジ方法が紹介されます)。もっとも、ヘッジファンドなどは、CBに内包されるオプション部分に投資することも少なくありません。読者の中には、ヘッジファンドなどの外国人投資家が個別株のオプションを買いたいなら、CBに投資しなくても、個別株のオプションそのものを買えばいいと考えた方がいるかもしれません。しかし、日本では個別株のオプションの流動性は極めて低く、その市場の育成が長年議論されつつも、今でもその市場は形成されていません(先進国の市場の中で、個別株オプションの市場が形成されていないのは日本だけだという意見もあります*6)。このような背景もあり、日本企業が発行するCBは、日本の個別株のボラティリティに投資できる商品だという特徴も有しています。(3)の個人投資家ですが、前述のとおり、(ユーロ円債ではなく)国内での公募で発行されるCBもあり、この場合、個人の投資家が購入することもあります。もっとも、近年、減少傾向にあります。機関投資家の中でも、特にヘッジファンドは、CBの中に内包される「オプション」にのみ、関心を持つことが少なくないとされています。ここからは、CBに内包されるオプションへ投資することの意味合いを具体的に考えていきます。単純化されたケースを例に取ります。まず、A社の株価が100円だとしましょう。読者は、1年後にこの株を100円で買えるオプションを、20円で買えるとします。この時の経済性は、1年後に株価が100円より高くなれば、読者はこの権利を行使しますし、100円より低ければ読者は権利行使しません。仮に当該企業が潰れても、20円のコストは支払いますが、それ以上は損をしません。これがオプションを保有する経済性ですが、次に、読者が転換価格100円のCBを100円で購入した場合を考えます。読者は当初100円を支払ってCBを受け取り、株価が100円を超えれば同様に権利行使して利益を得ます。もっとも、CBの場合、仮に当該企業が

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