ファイナンス 2025年5月号 No.714
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SPOThttps://sites.google.com/site/hattori0819/ 66 ファイナンス 2025 May.*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者による*2) 東京大学 公共政策大学院 特任准教授*3) 正式名称は転換社債型新株予約権付社債ですが、本稿では単純に転換社債と記載します。*4) 下記を参照 ものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。東京大学 服部 孝洋*22.1 ユーロ円CBとは2.CBの投資家1.はじめに本稿は転換社債(Convertible Bond, CB)の基礎について、特にCBを保有する投資家の観点から議論をしていきます*3。本稿で説明するとおり、現在、日本企業が発行する多くのCBは、円調達をする際でも、ロンドンなどの海外で起債がなされています。その理由は、CBに投資する主な投資家が、CBファンドやヘッジファンドなどの外国人投資家とされているからです。CB市場には、もちろんCBをヘッジせずに保有する投資家もいますが、CBを購入する際に株式をショートすることなどでヘッジするような投資家も少なくありません。特に、CBに内包されるオプション部分はヘッジファンドに購入され、残りの社債部分は日本の金融機関などに購入されています。この分解を理解するため、本稿では、CBリパッケージ債の仕組みについて丁寧に説明します。なお、本稿は「転換社債(CB)入門―基礎編―」上でまずは両論文を参照してください。本稿では、デリバティブ(特にオプション)やコーポレート・ファイナンスの基本は、前提とさせていただきます。債券の基本については服部(2023, 2025c)などを参照していただきたいですが、オプションなどデリバティブの基本については筆者がこれまで記載してきた債券入門シリーズで説明しているため、筆者のウェブサイトを適時参照してください*4。日本企業が発行するCBの特徴は、多くのCBがユーロ円債(ユーロ円CB)である点です。ユーロ円債とは、「日本国外で」発行される円建ての債券です。多くの人にとって「ユーロ」というと欧州の通貨という印象が強いですが、ユーロには「その地域以外」という意味があります。したがって、日本企業が発行する円建てのCB(ユーロ円CB)は、ロンドン市場など日本以外で、かつ、円建てで発行されていることを意味しています。日本企業が欧州でドル建てのCBを発行した場合、米国以外でドル調達をしているので、ユーロドルCBになります。なぜ日本企業が発行するCBが海外市場で発行されているかというと、筆者の理解では、CBの投資家が日本国内よりも海外に豊富に存在するからです。もちろん、CBに関しては、日本国内で販売することもできます。ですが、グローバルにCBの投資家がいる中で、海外の投資家向けに販売するのであれば、目論見書も英語だけですむなど、手続き上の簡便さも指摘できます。「発展編」で言及したとおり、実際のCBのプライシングは、日本時間の夕方ごろに開始し深夜くらいまでには終わるため、通常の株式や社債の発行に比べ圧倒的に早いといえます。国内で販売されることも近年では少なくなってきましたが、CBにはユーロ円債だけでなく、国内で発行される円建てのものもあります。「基礎編」で説明したとおり、CBはあくまで(服部, 2025a)と「転換社債(CB)入門―発展編―」(服部, 2025b)を前提にしているため、本稿を読むCBの有する特徴について包括的に議論する一方で、転換社債(CB)入門―投資家編―*1

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