SPOT *20) 期待されるのは、やはり法令データである。また、官報掲載情報のうち企業の決算公告の一部は、令和3年(2021年)から経済産業省が運営する法*21) 財務省『ファイナンス』2023年5月号、坂口和家男「財務省の礎 国庫課へようこそ」参照。人情報提供サイト「gBizINFO」にデータ連携されており、この法人情報データもベース・レジストリとして整備される予定である。国立印刷局法の一部改正(官報電子化とベース・レジストリ)によるデジタルシフトファイナンス 2025 May. 653−2ペーパーとデータでていただきたい。電子署名やタイムスタンプで真正性が確保され、電磁的に正確に保存される、膨大な官報掲載情報(法令データや企業公告など)。これは、まさに登記申請など「行政手続の基礎となる体系的なデジタルデータの集合」そのものである。中核となる法令データにe-LAWS(電子法令システム)との連携強化や告示情報の取扱いなど一部課題を残すものの、デジタル官報は、国の公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)として機能する見通しを備える*20。国立印刷局には、改正印刷局法の下で、日々発行され続けるデジタル官報をフロー面で支えながら、発行・蓄積されていく官報データをストック面でも整備していく役割が期待される。【ベース・レジストリの整備及び改善】については、国会やデジタル庁を中心に議論されてきた様々な構想が法制化されたばかりであり、これからが本番という状態にある。既にデジタル庁に「ベース・レジストリ推進有識者会合」が設置され、企画・立案・事業推進の具体的検討が始められた。当然、その先には「データの加工、記録、保存及び提供」の委託・実施プロセスが控えている。国立印刷局は事業計画や業務方法書の変更等を通じて主務省との連携を図り、政府による法人・不動産・アドレスの各ベース・レジストリの順次実装に備えている。こうした中、来夏に予定されている政府の「公的基礎情報データベース整備改善計画」策定が待たれるところである。個別法の改正によって国立印刷局がデジタル分野へ一歩を踏み出した背景には、令和に入って議論が加速した「行政のデジタル化」の流れが透かし見られる。一般的にDXの第一歩は紙媒体・印刷物からの脱却(ペーパーレス)とされ、この点において行政DXは、政府印刷事業を担ってきた国立印刷局にとって、この上ない逆風と考えるのが自然であろう。しかしながら本業の「紙に印刷する」という作用に拘泥せず、前工程に当たる「原稿の作成」に高度な専門性とデジタル技術の親和性を見出し、それらの強みで環境の要請に応える。印刷物を無用のものとせず、デジタルデータと補完し合う役割を付与し、シナジーや採算性の程度に応じて業務を捉えなおす。これらのアプローチはBPR(業務改革)として理に適っており、とても興味深い。印刷局法改正はこれらを実現する一つの節目に違いないが、関係各所の熟議に感謝するばかりである。ところで国立印刷局と言えば、むしろ銀行券(紙幣)を印刷している組織というイメージが強いのではないだろうか。昨年7月3日、渋沢栄一・津田梅子・北里柴三郎の各氏を肖像に用いた新デザインに切り替える「改刷」が行われたばかりであり、国立印刷局の存在も改めて世に印象づけられたと言えよう。しかし、「キャッシュレス決済が浸透しているのに紙の通貨が必要なのか?」という声も少なからず聞かれた。リアルマネーの存在意義は常在のこととして、通貨の世界にも冒頭に掲げた「ペーパーからデータへ」の流れがある。視線を転じると、筆者の職場では、隣のチームがCBDC(中央銀行デジタル通貨)について関係当局と日々議論を深めている*21。いつか遠からず、官報と並んで国立印刷局が深く関わっている我が国の通貨がデジタル化に向かうなら、大変複雑な法整備が必要となるに違いない。そのとき「ペーパーとデータで」と結んだ本稿が何らか一助となれば幸いである。
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