ファイナンス 2025年5月号 No.714
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100として指数化)420232022202120202029102710281026102510241023102210211020102900280026002700250024002比率(2割合(%)020年=割合(%)3202420222021202020291028102710261025102410231022102110201029002800270026002500240020SPOT 図1  貴社の景況「不明」の推移(全産業×大企業)(予測調査結果貴社の景況感「不明、翌々期」(左目盛)設備投資比率(右目盛)現金・預金比率(右目盛)14012010080604050454035302520151050貴社の景況感「不明、翌々期」貴社の景況感「不明、翌期」貴社の景況感「不明、当期」40302010図2  貴社の景況「不明(翌々期)」(予測調査)、設備投資比率※(法企調査)及び現金・預金比率※(法企調査)の推移(全産業×大企業)、後方4期移動平均 ※定義は、付録を参照されたい。より、後方4期平均を算出)企業の主観的不確実性と設備投資ファイナンス 2025 May. 512 先行研究査」)の公表結果を用いて、景況感の見通しに対する不確実性が国内企業の設備投資に与える影響を簡便な方法で分析した結果について紹介する。本稿の構成は以下のとおりである。第2節で関連の先行研究を概観し本研究の意義を明確にする。第3節で分析の枠組み、第4節で分析結果を述べ、第5節でまとめと展望を示す。不確実性に関する研究は多岐に亘るが、ここでは、日本における最近の研究を概観する。同分野の包括的な解説は、藤谷他(2022)、山口(2024)、森川(2025)などを参照されたい。経済主体が直面する不確実性を把握するには、経済主体が持つ将来の予測に対する主観的確率を直接尋ねることが有効とされている(Manski(2018))。しかし、これを行うことは一般に困難なため、不確実性を間接的に把握するための様々な代理指標が開発されてきた。山口(2024)、森川(2025)は、不確実性に対する代理指標を以下の4つに分類している:(1)株価等のボラティリティを指標としたもの、(2)新聞報道におけるキーワードを元にしたもの、(3)エコノミスト等による経済予測の予測誤差を指標としたもの、(4)ビジネスサーベイデータに基づく企業の事後的予測誤差を指標としたもの。(1)~(3)は、主にマクロレベルの不確実性指標からなる。(1)の代表例としては、VIXなどの株価指数のボラティリティが挙げられる。また、(2)の例としては、新聞・雑誌における経済に関する「不確実性」などの用語を含む記事の割合から作成される指数がある(例えば藤谷他(2022))。当該指数は、財政や金融などカテゴリーごとの指標作成なども可能であり、国際比較も容易といった特長がある。一方、(4)はミクロレベルの指標であり、業況に対する企業の予測と実績の差(事後的予測誤差と呼ばれる。)のばらつきにより定式化される。具体例として、山口(2024)による、日本政策金融公庫総合研究所が実施する全国中小企業動向調査及び中小企業景況調査の個票データを利用した研究が挙げられる。同調査では、業況判断や売上などの今期の実績とともに、来期以降の予測を尋ねているが、山口(2024)は、連続して調査対象となった企業の個票データを利用し、業況判断の来期に対する今期の予測と、来期の実績との乖離の標準偏差を不確実性指標としている。これに対し、不確実性の直接的な把握についてもいくつかの試みが行われている。ここで、不確実性は、将来の見通しに対する主観的確率が事前に分かっている「リスク」(例えば、自社売上に対する予測分布が事前に想定できる場合)と、主観的確率が不明なナイト流不確実性に分類される。一つ目のリスクを直接計測する方法としては、例えば、経済成長率見通しに関する企業の主観的確率を、アンケート調査により直接把握するものがある(Morikawa(2021))。一方、二つ目のナイト流不確実性を把握した事例は少ないが、例えば、来期の売上が上昇する確率が、一つの数値ではなく区間で報告された場合をナイト流不確実性として扱ったものがある(Bachmann et al.(2020))。また、本稿の冒頭で述べた予測調査の判断調査項目に対する回答のうち、「不明」は先行きの方向性がわからない状態を表しており、森川(2022)は、これは

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