ファイナンス 2025年5月号 No.714
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AIの進化が止まりません。私は36年間、タイPRプロデューサー殿村 美樹ムリーなPRを模索してきましたが、AIが普及する現状を目の当たりにして、日本人はコミュニケーションを見直さねばならないと感じています。AIには日本のコミュニケーション文化が通じないからです。特に自己紹介。謙虚を好む日本人は、自分の魅力をダイレクトにアピールすることが苦手です。本心では強く伝えたいと思っても、できるだけ表現を和らげてしまい、結果的に相手に忖度を求めてしまいます。そんな“日本人の心”は和歌や短歌に思いを託すコミュニケーション文化を生み、古くから尊ばれてきました。先ごろ一世を風靡したゆるキャラも、地域PRを可愛く託せたからこそ、ブームになったのです。しかし今後は、ダイレクトな表現で自己紹介しないとAIに存在を消されるかもしれません。たとえばビジネスの場合、新たな取引先があなたの会社の情報を得るためにネット検索したとしましょう。するとAIが出てきて「情報が見当たりませんでした」と回答したら、どんな印象を抱くでしょうか。想像しただけで恐ろしくなります。また、自虐PRが大好きな地方自治体は根本的に考え方を変える必要があります。これまで自虐は「謙遜は美徳」と考える日本人の心に刺さりましたが、今後も続けていると大変なことになります。たとえば、公式サイトで「何もない地域です」と自虐的なキャッチコピーでPRしたとしましょう。するとAIがそのまま「ここは何もない地域」と学習し、瞬時に多言語で世界中に「何もない地域です」と紹介してしまいます。結果、地域がどんな影響を受けるかは想像に難くありません。では、どうすればいいのでしょうか。抑えるべきポイントは3つあります。まず、公式サイトやSNSなど「オウンドメディア」と呼ばれる情報発信ツールの言葉をすべてポジティヴな表現に変えましょう。企業や団体は「社会にどう貢献しているのか」を明確に表現し、キャッチコピーは10文字以内にまとめましょう。言葉は短い方が伝わります。また自虐PRは地方自治体だけでなく、企業も自殺行為になります。たとえば、技術が優れていることを「ズルい技術」といったコピーでPRしたとしましょう。日本人には小粋に聞こえても、AIはそのまま学習して「ズルい技術を持つ会社」と多言語で世界へ発信してしまうでしょう。結果、海外で「ズルい方法で技術開発している会社」と誤解されてグローバル展開に支障が出るかもしれません。ただ、「ポジティヴな自己紹介なんて、どう表現したらいいかわからない」という人も多いでしょう。そんな方には数字を使ったPRをお勧めします。数字はAIにも通じる万国共通の表現方法で、数字そのものに深い意味を感じる国も少なくありません。なかでも「3、5、7、8、10、100」はポジティヴに受け止められる可能性が高いので、上手に活用すると効果的なPRができます。もちろん国内でも有効です。日本史上にも、無名だった宮本武蔵が、京都の一条寺下り松の決闘で「100人にも及ぶ名門・吉岡家を倒した」と数字を使って吹聴したことで、一気に注目を浴びたというエピソードが残っています。100という数字が「大量」のイメージを伴ってクチコミを加速させたのです。現代のネット社会ではさらに効果を発揮し、AIやSNSだけでなく、グローバルコミュニケーションも味方につけることができるでしょう。試してみてください。ファイナンス 2025 May. 1AI時代のコミュニケーション 〜自己紹介を見直そう〜巻頭言

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