ファイナンス 2025年5月号 No.714
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SPOT 業界損失指数型 (Industry Loss)再保険会社 (ポートフォリオ保護)中程度 (スポンサー自身と業界全体のリスクポートフォリオの乖離)中程度 (業界データ収集に時間がかかる可能性)高い (実損填補型に次いで一般的)パラメトリック型 (Parametric)政府・インフラ事業者 (財政保護等)高い (物理的指標と実際の損害が 必ずしも一致しない)主なスポンサーと目的ベーシスリスク (実損と支払いの乖離)支払いの迅速性普及度その内訳は、保険のリスクスプレッド6.13%、資産運用利回り4.30%となっている実損填補型 (Indemnity)保険会社 (リスク移転)低い (スポンサーの実際の損失に 基づいて補償)遅い (損失額査定に時間がかかる)最も高い (全体の6割以上を占める)速い (客観的指標で支払い決定)低い (左の2類型ほど一般的ではない)ファイナンス 2025 May. 43保険市場40兆ドル再保険市場7,120億ドル債券市場141兆ドルCATボンドの特長として、スポンサーにとっては、資本市場を通じて(再)保険市場のキャパシティを超えるリスクを移転できること、複数年(通常3-5年)の安定した補償が得られること等が挙げられる。投資家にとっては、伝統的な債券より高いリターン(10%前後)*4が期待できること、ポートフォリオ分散効果(伝統的資産との相関係数が低い)が得られること、ESG投資としての側面があること等が魅力となっているのSPVを通じた発行が主流となっている。香港も近年、発行拠点として台頭している。表:CATボンドのトリガーの3類型の比較図2:グローバル債券市場と(再)保険市場の規模(残高ベース)2.アジア太平洋地域におけるCATボンドの普及状況アジア太平洋地域は、自然災害による経済的損失において世界全体の4割*5を占める一方、CATボンド市場の発展はグローバル市場に比べて遅れている。2024年末時点の世界全体のCATボンド発行残高は約500億ドル、2024年通年の発行額は約180億ドルに達したが、アジア太平洋地域のリスクをカバーするCATボンドの発行額は、全体の3%未満にとどまっている。地域内のこれまでの発行実績の大部分は日本のリスクを対象としたものとなっており、豪州、中国、台湾、ニュージーランドが続く。これらの国・地域を除くと、2019年にフィリピン政府がスポンサーとなり、世界銀行と連携して発行したものが唯一の発行事例であり、地域内の偏在が顕著となっている。域内の発行拠点としては、シンガポール金融管理局(MAS)による補助金制度が後押しとなり、シンガポールまた、投資家の構成としては欧米のCATボンド投資専門ファンドや(再)保険会社が中心で、アジア地域内の投資家の参加は限定的であることが指摘されている。CATボンドの発行はほとんど米ドル建てであり、現地通貨建て保険契約との通貨のミスマッチも潜在的な課題である。3.普及が進まない要因アジア太平洋地域で、CATボンドが十分に普及していない背景には、複数の要因が存在している。まず、スポンサー側の課題として、アジア太平洋地域の多くの国では、事前のリスク移転よりも災害発生後の事後対応が主となっており、災害復旧資金の調達も政府援助や国際支援に依存している状況がある。また、CATボンドは(再)保険市場を補完・代替する手段であるが、その前提となる一次保険市場の規模が小さいことが課題となっている。実損填補型の前提となる損害査定能力も地域内では不足している。そして、CATボンドの発行コスト(保険料を含むリスクスプレッドや、SPVの運営費、トリガー設計コスト等)は、中小企業にとって大きな参入障壁となっている。*4) CATボンドに特化した専門メディアプラットフォームArtemis.bmが公表する市場利回り指標は2025年3月時点で10.43% *5) 2000年-2024年の平均で、自然災害による年間経済損失は世界全体で3,240億ドル、アジア太平洋地域は1,260億ドルアジア太平洋地域における災害リスクファイナンス(DRF)の展開*4 *5※債券市場は2024年末の推計発行残高、保険・再保険市場はそれぞれ2023年・2024年末の資産規模

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