SPOT国際局地域協力課 課長補佐 杉浦 成彦/係長 佐藤 博紀*1) 2024年のアジア太平洋における自然災害による経済的損失740億ドルに対して、カバーされた損失はわずか40億ドル 40 ファイナンス 2025 May.同年の世界全体のプロテクションギャップは60%(経済的損失:3,680億ドル、カバーされた損失:1,450億ドル)(1)SEADRIFの歩み(1)DRFとは(2)日本の立ち位置2. SEADRIF - ASEAN+3金融協力の新たな柱へはじめに1.アジア太平洋地域におけるDRFアジア太平洋地域は、世界でも有数の自然災害多発地域である。2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震による22万人超の死者、2013年のフィリピンを襲った台風ヨランダによる約9千人の死者・行方不明者等、大規模災害が各国の経済・社会に深刻な被害をもたらしてきた。直近でも、2024年9月にラオスを襲った台風ヤギ、同年12月のバヌアツのM7.3の地震、そして2025年3月のミャンマーを震源としたM7.7の地震等、気候変動の影響や人口集中により、自然災害の被害は激甚化の一途をたどっている。本稿では、こうした状況に対応するため日本が主導してきたアジア太平洋地域におけるDRFの取組について紹介する。災害リスクファイナンス(Disaster Risk Financing, DRF)は、自然災害による経済的影響を軽減するために、災害発生前に計画的な資金調達メカニズムを構築する体系的アプローチであり、政府・企業・個人を含む社会全体の災害に対する財務強靭性を高めることを目的としている。日本は、長年にわたる地震や台風等の災害経験を踏まえ、地震保険を整備する等、従来からDRFを強く認識し、アジア太平洋地域においてもその取組を進める重要性を主張してきた。アジア太平洋地域では、災害リスクへの財務的な備えが十分でない国が多く、自然災害による経済的損失のうち、保険等でカバーされない「プロテクションギャップ」は95%*1に上る。こうした現状を踏まえ、日本は二つの主要な取組を主導してきた。一つは東南アジア諸国向けの「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」、もう一つは太平洋島嶼国向けの「太平洋災害リスク評価・資金援助イニシアティブ(PCRAFI)」である。両取組は、それぞれの地域の特性やニーズに応じて異なる発展を遂げつつも、日本のリーダーシップの下で着実に前進している。SEADRIFは、東南アジア諸国が災害後の迅速な復旧・復興に必要な資金を確保できるよう、保険等の金融支援を通じて財務強靱性の向上を目指す枠組みである。始まりは、カンボジア・ラオス・ミャンマーが相次ぐ大洪水に見舞われたことにある。2017年5月、日本財務省はこれらの国々と「DRF・保険に関する地域技術作業部会」の設立に関する覚書を交わし、SEADRIFの制度設計の準備に着手した。その後、2018年12月には日本、シンガポール、ラオス、ミャンマー、カンボジア、インドネシアがSEADRIF設立の覚書に署名、2019年にフィリピン、2022年にベトナムが加わり、現在8ヵ国が参加している。SEADRIFは、戦略的方向性を決定する「SEADRIFトラスト」と、シンガポールの民間損害保険会社であり、保険商品開発や技術支援を担う「SEADRIF保険会社」の二つの機関で構成され、ガバナンスと実行力を両立している。日本は設立当初からシンガポールと共に議長国及びドナーとして、加盟国間の対話やアジア太平洋地域における 災害リスクファイナンス(DRF)の展開
元のページ ../index.html#44