SPOT 「中央銀行デジタル通貨(CBDC)とFinancial Integrityを巡る国際的な議論」ファイナンス 2025 May. 39結びする章についても、本年の公表を目指して作業が進捗している。当該章の起案にあたりIMFは、マネロン等対策を担うFATF事務局も招待する形で、主に各国中銀向けのオンライン・ラウンドテーブルを開催した。この場で、財務省からも改めてP2P取引が現行の枠組への根本的な挑戦となりうる旨指摘するとともに、関連して、例えば災害時などネットワークが遮断された「オフライン」状態でもCBDCの価値移転を認める場合、少なくとも一時的に仲介機関を含め不正利用等の確認ができなくなるリスクや、それへの対応策(移転額の制限等)など活発な議論がなされたところである。その後、マネロン等を所掌するIMF法務局の幹部が、財務省幹部を訪問した際にも改めて、先方から日本の問題提起に謝意が示された。わが国は、資金の出し手としての立場も活かしつつ、この分野において引き続き能動的にIMFに働きかけていく方針である。また、より幅広い視点からは、FSB(金融安定理事会)もG20の下で、クロスボーダー送金に関する検討を積極的に進めてきた。クロスボーダー送金については、スピード、コスト、アクセスといった面から改善が必要だが、同時に、金融システムの安定やIntegrityが損なわれないよう注意が必要となる。金融安定をマンデートとするFSBの多くの参加者は金融規制・監督や中央銀行の経験が長く、必ずしもマネロン等の専門家ではないケースも多いが、最近では、暗号資産やCBDCを含む金融新技術の勃興も背景に、FSBとFATFの関心領域が一層重なりつつある。このように、政策当局が直面する課題は、益々複合的になっており、包括的な視点を持ちながら、異なる政策目的間で高度にバランスを取る必要が一層増している。こうしたもと、財務省は双方をカバーしている強みを活かしつつ、各取組の相互紹介などを通じ、両者の対話・連携の更なる強化を訴えてきた。今後、関連国際機関における議論の進捗も踏まえながら、FATFにおいても、わが国を含む関心の高い法域及び事務局を中心に議論を重ねたうえで、CBDCに対するアプローチを改めて整理していくこととなっている。本稿では、CBDCを巡るマネロン等に関する国際的な議論及びわが国の取組を中心に紹介してきた。折しも米国では、米ドル版CBDCの発行が大統領令により禁止されるなど先行きは一層見通し難くなっているが、CBDCは設計・利用のあり方次第で広範なインパクトを与えうる。こうしたことを意識しつつ、わが国としては、FATFを中心とした国際場裡において、”by design”の視点をもって検討していくことの重要性を、引き続き主張していく方針である。
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