ファイナンス 2025年5月号 No.714
41/112

SPOT *5) G7新潟財務大臣・中銀総裁会議の前月には、暗号資産コンタクトグループ会合を日本でホストし、暗号資産に関するFATF基準の実施促進のほか、DeFiやP2P取引を含む新たなリスクへの対応を議論。金融庁によるリリースは以下。https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20230414/20230414.html*6) 「CBDCフォーラム」については日本銀行ホームページ参照。https://www.boj.or.jp/paym/digital/d_forum/index.htm*7) GFTNフォーラムジャパンについては以下ホームページ参照。https://gftnforum.jp/「中央銀行デジタル通貨(CBDC)とFinancial Integrityを巡る国際的な議論」PSCF会合におけるCBDCパネルでの登壇ファイナンス 2025 May. 37(1)官民連携による基準遵守に依存している。加えて、ゲートキーパーが存在しない現金に関しては、特にクロスボーダーでの取引となれば手間も時間もかかることから、一定の制約が存在するとの(暗黙の)前提も存在している。ところが、新たな決済手段の普及により、こうした前提が大きく変わるケースには、十分な注意が必要である。特に、国境を越えた不正資金の移動が容易になれば、金融制裁等の実効性にも影響が及ぶなど地政学的なインプリケーションや経済安全保障上の視点も無視し得ない。わが国が議長国として2023年5月に新潟で開催した、G7財務大臣・中央銀行総裁会議においても、暗号資産に関する基準の実施促進のほか、P2P取引や分散型金融(DeFi)から生じるものを含む新たなリスクに関して、FATFにおける作業の継続・強化に関する支持をコミュニケの中で明記した。また、わが国はグローバルにみても早い段階で暗号資産やステーブルコインに関する規制・監督を整備してきた経験を糧に国際的な議論をリードしてきた。特にFATFにおいては基準の策定・改訂等を担う作業部会やその傘下にある暗号資産コンタクトグループの共同議長(いずれも金融庁)としての立場も活かしつつ、積極的な問題提起を行いながら、先に紹介したCBDC Annexや後述するIMFのハンドブックプロジェクトなどに繋げてきた経緯である*5。以下では、FATFに関連する最近のわが国の取組を、(1)官民連携、(2)地域的なイニシアティブ、(3)他の国際機関との協働、といった視点から幾つか紹介したい。まず、CBDCを巡る検討に当たっては、エコシステムを構成する幅広いステークホルダーの知恵を持ち寄ることが不可欠であり、官民の連携は極めて重要な要素となる。この点、FATFは、金融機関を中心とする民間セクターへアウトリーチし、意見交換を行うための会合(Private Sector Collaborative Forum、PSCF)を毎年開催している。2024年4月にウィーンのUNODC(国連薬物犯罪事務所)で開催された会合においては、わが国の提案によりCBDCに関するセッションを設定し、IMF・ECB(欧州中央銀行)・BIS(国際決済銀行)とともに財務省国際局からパネリストを派遣するなどして、マネロン等の観点から議論を主導した。議場では、暗号資産に関するFATFの経験を踏まえて、どうCBDCにアプローチしていくべきかなど、国際機関も含め200名以上の参加者が集まる中で、活発な意見交換が行われた。わが国からは、先に述べたような問題意識を改めて指摘しつつ、日本におけるCBDCの検討状況を整理のうえ、共有した。特に、多様な関係者の連携の観点から、財務省理財局長が議長を務め、日本銀行を含む約15の関係省庁等の局長級が参加する「CBDCに関する関係府省庁・日本銀行連絡会議」のほか、日本銀行が主催する、60以上の民間事業者を入れた議論の場である「CBDCフォーラム」を好事例として紹介した*6。さらに、本年3月にはJapan Fintech Week(金融庁主催)の一環として開催されたGFTNフォーラム*7の金融犯罪ラウンドテーブルにおいて、財務省の梶川審議官が、民間セクターのほか学界やアジア開発銀行など国際機関を含む幅広い関係者を前に、FATFにおけるクロスボーダー送金を巡る取組や、CBDCのほかP2P取引・DeFiといった新しい分野へ注意を払うことの重要性を指摘した。マネロン等の専門家においても、(少なくとも目先の課題とはならない)CBDCに関する議論はかすみがちになることを踏まえ、財務省としても、引き続き多様な機会を捉えて地道に情報発信を続けていく方針である。

元のページ  ../index.html#41

このブックを見る