SPOT*3) 公共財としてのCBDCが備えるべき要素としては、G7による「リテール中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する公共政策上の原則」(2021年10*4) 「いわゆるステーブルコインに関するG20財務大臣・中央銀行総裁へのFATF報告書」(2020年7月)参照。 36 ファイナンス 2025 May.月)等を参照。わが国としての問題意識や取組FATFにおけるCBDCを巡る議論CBDCは公共財であることを踏まえれば、通貨・金融CBDCが広く普及するような場合に、既存の枠組で十2019年6月に暗号資産を基準対象として明確化したシンプルな回答は「設計次第、利用のされ方次第」ということになろう。一方で、どのような設計にせよ、システムの安定、ガバナンスやデータプライバシーの確保など一定の備えるべき基本的な要素があり、マネロン等対策はその大きな柱の一つとなる*3。そして、マネロン等に関しては、現金を含む既存の決済サービスと異なるCBDC固有のリスクがあるか、という問いが検討の出発点となる。例えば、主として国内利用を想定し、かつ中央銀行と銀行等の民間事業者による二層構造を維持する前提であれば、マネロン等対策としては、銀行や資金決済業者、暗号資産業者等に所要の対策を求め、その遵守を監督・規制する、という既存の枠組で概ね十分と整理できよう(別途、公的当局がどの程度データを保有するかといった論点は生じうる)。一方で、現時点ではなお「遠景」かもしれないが、クロスボーダーかつ個人間(P2P)取引も可能な分実効性が担保できるかは改めて検証されなければならない。こうした問題意識を踏まえ、マネロン等対策に係る基準の策定・履行を担うFATFも、検討を進めてきたところである。金融新技術を巡るFATFの対応例として、その匿名性やクロスボーダーな資金移転の容易性を踏まえ、ことが挙げられる。また、暗号資産は値動きの激しさが故に決済手段としての使い勝手が悪いことから、これを克服する試みとしてステーブルコインが登場した。仮に、価値が安定し、利便性の高いステーブルコインが広く普及すれば、マネロン等を含む不正への利用誘因も働くことになることから、FATFは、2020年7月、ステーブルコインに関する報告書をG20向けに提出し、その中でCBDCに焦点を当てた附属文書(Annex)も公表した*4。そこでは、CBDCはFATF基準上の暗号資産とは異なるとしたうえで、中央銀行という発行体への信頼等を背景に、より使い勝手の良いものとなりうるCBDC固有の論点にも言及しており、今なおFATFにおける基本的な見解となっている。すなわち、CBDCはなお多くの法域で検討の初期段階であり、FATFにおいてもそのリスク理解は道半ばであるものの、設計次第で現金よりもリスクが高くなる可能性を指摘している。特に、匿名性の高さ(anonymity)、移転の容易さ(portability)、広範な普及(mass-adoption)、といった条件が揃う場合には、「マネロン・テロ資金を目的とする犯罪者やテロリストにとって非常に魅力的になりうる」と強調したうえで、CBDCをローンチする前の段階から、先を見据えて(forward-lookingに)関連リスクに対処すべきと指摘している。こうした問題意識も踏まえ、2024年4月には、FATFにおける閣僚級のコミットメントとして、FATF大臣宣言が採択された(FATFは隔年で大臣会合を開催)。本宣言では、CBDCを含む金融分野におけるイノベーションに関し、設計段階から(by design)、マネロン等対策(AML/CFT/CPF)に関するintegrityを確保すべく、FATFが、IMFなどを念頭に他の国際機関との対話や戦略的な取組への関与を継続することが謳われている。この方針は、FATFにおける向こう2年間の戦略的優先事項や具体的なワークプログラムにも反映されている。こうしたFATFにおける議論において、わが国は、CBDCに限らず暗号資産・ステーブルコインも含め、とりわけクロスボーダーでのP2P取引についてのリスクを重視してきた。これは、国境を越える資金移転が容易かつ大量にできるようになれば、現在のFATF基準のコンプライアンスメカニズムに対する根本的な挑戦になりうるためである。すなわち、FATF基準の実効性確保に関しては、現状、顧客の本人確認に代表されるデューディリジェンスや疑わしい取引の探知・届出といった、マネロン等対策の柱となる機能の多くを、金融機関をはじめとする仲介機関、言わば「ゲートキーパー」の存在と彼ら
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