ファイナンス 2025年5月号 No.714
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SPOT る*1。さらに、現金への信頼が厚いほか、多様な決済国際局 資金移転対策室 大臣官房企画官 山﨑 貴弘/課長補佐 五十嵐 祥子/係長 石井 亮太*1) 「CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する関係府省庁・日本銀行連絡会議 中間整理」(2024年4月17日)参照。*2) 「第2回CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する関係府省庁・日本銀行連絡会議 配布資料 財務省(国際局)説明資料」(2024年3月12日)参照。ファイナンス 2025 May. 35CBDCを巡るマネロン等リスクの位置づけはじめに中央銀行デジタル通貨(CBDC、Central Bank Digital Currency)を巡っては、その設計様相に応じ多様な論点が存在しうる。国際的な議論においても、マネー・ローンダリング対策等を含むFinancial Integrity(健全性)は、CBDCの設計段階から考慮が欠かせない要素とされている。グローバルにCBDCを巡る検討が進んでいることも踏まえ、本稿では、マネロン等対策の基準策定・履行等を担うFATF(金融活動作業部会、Financial Action Task Force)における議論及びFATF関連の取りまとめ省庁である財務省(国際局)の取組を中心に概説したい。CBDCについては、グローバルに各種実証実験などが進んでいるほか、バハマやナイジェリアなど一部法域で実装もされている。他方で、「CBDC」と一括りに言っても、一般に広く使えるリテール向けか金融機関間などで用いられるホールセール向けなのか、あるいは国内向けなのかクロスボーダー利用も展望するかなど、話者や文脈によって思い浮かべるものが必ずしも一致しないことに留意が必要である。特に新興国を含めた多様な主体が集まる国際会議の場では、CBDCの前提となる通貨制度や、決済を巡るルール・慣習等も異なり、お互いの前提を確認しながら丁寧に議論を進めることが欠かせない。本稿では、「誰でも、いつでも、どこでも」利用できることを想定したリテール向けのCBDCを念頭に、マネロン等の側面から国際的な議論を紹介する。なお、わが国では、現時点でリテール向けCBDCの導入について何ら決まっていない一方、仮にその発行が社会的合意として決定される際に遅滞なく対応できるよう、所要の検討を進めておくこととされてい手段が広範に普及しているわが国において、特に国内向けのリテールCBDCのニーズやユースケース(活用例)は必ずしも明らかではない、というのが一般的な見方であろう。一方で、技術革新や環境変化のスピードは極めて速く、特に10年、20年先を正確に見通すのは難しいこともまた真である。例えば、今や当たり前のように利用されるスマホ決済も、iPhoneが存在すらしなかった20年前にここまでの広がりが見込まれていた訳ではない。政策当局には、想像力をたくましくして、こうした先々の変化に常に備える姿勢も求められる。金融分野に限らず新技術の活用に当たっては、リスクや負の影響を最小限に抑えながら、その利点を最大化するというバランスが欠かせない。CBDCに関しても、(まだ見ぬものも含め)新たなユースケースは、新しいリスクと裏腹であることを意識しつつ、(1)決済の効率化等による便益の向上といったポジティブな側面と、(2)プライバシー保護、マネロン等対策、サイバーセキュリティ、金融制裁の実効性確保といった課題やリスクへの対応、この双方の観点をもって議論を進めていくべきである。そのうえで、途上国を含めCBDCを巡る検討が広がりを見せる中、財務省国際局では、(2)に挙げたような課題に十分対処できていないCBDCがデファクトスタンダードとならないよう、国際的なルールや基準の整備・普及を巡る議論に貢献していくことが重要としている*2。では改めてCBDCのリスクとは何か?これに対する「中央銀行デジタル通貨(CBDC)とFinancial Integrityを巡る国際的な議論」~FATFにおける検討と財務省の取組を中心に~

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