ファイナンス 2025年4月号 No.713
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連載PRI Open Campus4.本特集号に関する今後の課題しいサンプリングに基づく情報が不可欠であると言えるでしょう。ビッグデータの活用が議論されると共に、その基盤である公的統計への理解と活用が進むといいなと思います。宇南山先生のご専門である、家計行動および消費者行動に関する経済統計の分野に関して、本特集号の成果を踏まえつつ、今後深めるべき、また深めたいテーマについても伺わせてください。統計の活用を進める観点から、まず一つは行政機関が持つビッグデータである行政機関の保有情報の活用について議論したいと思います。行政データを統計制度の中でどのように位置づけ、どのような役割を果たせるのかについて議論し整理する作業は少々マニアックではありますが、比較的私に優位のある分野だと思います。この取組を通じ、行政データが利用者にとってより使いやすくなる環境が整備されれば幸いです。もう1つは、「家族がどうやって作られるか」についての分析、およびそのために必要な情報の整理に取り組みたいと考えています。家族形成に関する情報は、依然として十分に整備されていない部分があります。特に、結婚や出産の意思決定に関するデータは、少子化問題と密接に関連する非常に重要な領域です。しかし、これまでの家計調査は既に形成された世帯を対象とすることが多く、「家族がどのように形成されたのか」というプロセスに関する情報はまだ十分に把握されていない状況にあります。現状、不足している情報が何で、その把握のために必要なことは何か。その情報を使用して何が分かるのか、これらについて整理・分析することで、少子高齢化・人口減少とも密接に関わってくる「家族形成」というテーマについて深めていきたいと思っています。行政データの活用が統計制度の中で果たす役割、というお話がございましたが、現在行政機関が保有しているデータで今後活用していくべきデータとしては具体的にどのようなものがあり、その活用にはどのような課題があるのでしょうか。注目すべき行政データの具体例としては、既に活用 76 ファイナンス 2025 Apr.最近ではビッグデータ分析における機械学習の活用等、以前よりも「統計」に対する注目度は上がってきていると感じています。本特集号の成果を踏まえつつ、今後「公的統計」がどのような役割を担い、どのように活用されることを期待されていますか。ビッグデータはその豊富な情報量から活用が非常に期待されており、一部では公的統計を代替できるのではないか、という声もあります。しかし、本特集を通じてご理解いただきたいのは、ビッグデータと公的統計の間には本質的な違いがあるという点、およびビッグデータを効果的に活用するには、公的統計が提供する母集団情報や正確なサンプリングデータが重要な基盤となるという点です。ビッグデータは特定の企業やプラットフォームが業務上の必要性から収集したデータであり、その性質やカバレッジは公的統計とは大きく異なります。一方、公的統計は統計学的に正確な基盤に基づき、社会全体の動向を把握することを目的として収集されたデータです。ビジネスレジスターがその典型ですが、公的統計が示す全体像があって初めて、特定のビッグデータが捉えている側面、およびそのビッグデータの位置づけの理解が可能となります。確かに公的統計には更新頻度や即時性においてビッグデータに劣る面があります。しかし、社会の構造や動向の全体像を把握するという点で、公的統計の役割は依然として重要です。むしろ、ビッグデータを活用する際には、公的統計の持つ母集団情報等の統計的に正

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