連載PRI Open Campus 3. 政策担当者や一般読者に伝えたいことのかについて佐野先生に解説していただいています。4つ目と5つ目は、外国人と障害者に関する統計の最新の動向についてです。今回クローズアップした外国人と障害者は、従来の統計調査によるデータ収集が難しいとされてきたものの、これからの日本経済において重要な役割を担っていく存在です。それらの統計に関する最近の動向について、それぞれ橋本先生、松本・勇上両先生に解説していただいています。まず政策担当者に伝えたいことについてお聞きします。冒頭の問題意識に関する質問で先生も仰っていたように、政策立案の現場では、客観的なデータや証拠を活用し、より効果的で効率的な政策を設計・評価する、いわゆるEBPM(Evidence-Based Policy Making)の重要性が注目されています。その中で、本特集号のテーマである「公的統計」について政策担当者はどのような点に着目すべきでしょうか。政策担当者は、EBPMの観点から実務にあたる際、統計を「客観的、かつ絶対的に先に存在しているもの」として扱い分析する姿勢を取りがちですが、統計は様々な制約のもとで特定の現実社会の一側面を切り取ったものにすぎず、決して絶対的なものではない、ということは理解していただきたいです。そのため、統計がどのように作られていて、どのような限界を抱えていて、どのような情報を本来的に含んでいるものなのかをよく理解しておくことはEBPMの実施には必要不可欠です。とはいえ、それを勉強するのは非常に難しいので、本特集号を、自分が見ている統計にはどんな現実社会が裏側にあって、どの側面を切り取っているのかについて考える機会としていただければ非常に嬉しく思います。次に一般読者に伝えたいことについてお聞きします。本特集号を通じ一般読者に向けて伝えたいメッセージはありますでしょうか。一般読者の皆さんは、政策担当者よりも統計を絶対視してしまう傾向にあるかもしれません。まずお伝えしたいのは、たとえ不正が何もなかったとしても統計は決して絶対ではなく不確定なものである、ということです。また、統計の直面している限界の多くの部分は調査客体である人々の協力にあることも事実で、最終的には人々の情報が集約されてできるものが統計ですから、一般読者の皆さんも自分たちが当事者であると考えていただけると嬉しいです。統計を作る人たちがどんな苦労をしていて、それは我々のどんな行動に原因があるのか。自分たちの生活を良くするためにはどんな情報を提供しないといけないのか。統計はどのように作られ、自分が提供した情報が有効活用されることで、最終的に社会がどのように良くなっているのか。そういったことを知る、実感する機会に本特集号がなればいいなと思います。一般読者にとって経済統計は少々マニアックで親しみにくい部分もあるかと思います。宇南山先生がお考えになる、経済統計の面白さとは何でしょうか。私が経済統計に興味を持つようになったのは、大学院の時に美添泰人先生(現青山学院大学名誉教授)の研究会に参加し、その薫陶を受けたことがきっかけでした。美添先生の下、家計簿に基づくミクロデータを使用した研究をさせていただいたのですが、家計簿から浮き出てくる人間行動に強く惹かれましたね。その人間行動が経済理論とある程度一致するところがあって、「こんなに人々は合理的なんだ」と感じる一方で、理論では説明のつかないディティールがあったりする。また、ある質問項目に対して答える・答えない、というのにも人間の考え方や行動が表れているのが面白くて、例えばプライバシーに関わるような質問など、「この質問には答えたくない」と自分が思うような質問にはやっぱりみんな答えていませんでした。こうした現象は、直感的には理解できるものですが、それが具体的な数値として示されると非常に説得力がありました。このように、経済統計の面白さは、データを通じて人間の行動が見えてくる点にあると思います。そして、時にそれが合理的だったり合理的でなかったりする、それもまた経済統計の面白さだと考えています。ファイナンス 2025 Apr. 75PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 42
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