ファイナンス 2025年4月号 No.713
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連載PRI Open Campus2.論文全体の構成についています。具体的には、家計部門の統計間で似たような変数であるにも関わらず動きが異なる変数があり、利用者にとって非常に混乱を招きやすい状況がありました。FR122号は、その不整合がどの統計間で、なぜ発生するのかを明らかにすることを目的に、私の専門分野でもある家計部門のマイクロデータの利用をイメージしながら企画・編集しました。本特集号ではさらに視野を広げ、「統計制度上の課題を解説する」という目的は変えないままに、家計部門にとらわれず企業部門も含めた統計全般の制度を紹介する、ということをテーマにしています。本特集号においては、企業や事業所、労働、家計消費、所得、外国人の就労、障害者に関する統計等幅広い分野の統計について言及されている点が印象的でした。執筆者を選定された際のこだわりや、構成全体を考える上で工夫したことがあれば教えてください。本特集号のテーマは大きく分けて「企業部門」と業部門の統計は過去15年、20年のスパンで大きな変革期を迎えていて、最近にも大幅な制度変更がありました。その変更を受け、昨年頃に新しい制度下における統計体系が確立しましたので、これを機に新しい統計体系の下で企業行動がどのように把握されているか、その全体像を示したいというのが本特集号で企業部門を取り上げた1つの狙いです。企業部門の統計制度改正の背景や意義については、これまで制度改正を最前線で指揮されていた菅先生に詳しく解説いただいています。また、企業部門の統計制度では、「統計によって企業の事業所母集団が異なっている」というのが長年の課題とされてきました。例えば、「日本で何社の企業が活動しているか」という非常に基本的なところにさえ、様々な見方がある状況が続いてきました。その状況を解消するために整備されたのが「ビジネスレジスター(事業所企業母集団データベース)」で、企業部門の統計における全体的な再構成の核になる部分です。このビジネスレジスターの詳細や意義については、総務省の担当者としてその整備に最前線で携わられていた榑松・山下両先生にお願いした次第です。次に、家計部門においては最新のトピックを取り上げよう、というのが全体的な狙いです。1つ目のトピックは2019年に発覚した毎月勤労統計の統計不正問題で、実は統計が国の制度に深く組み込まれていて、政策の基礎的な情報となっていることが明らかになる契機となりました。この統計不正問題について、何が起こり、どのような影響が生じ、どのように改善が図られたのかという一連の経緯と、未だ残されている課題について、総務省統計委員会担当室で問題の対応に携わった肥後先生に解説いただいています。2つ目は私自身の論文で、2018年から公表が開始されたCTI(消費動向指数)について紹介しています。CTIという比較的新しい統計がなぜ作られるようになったのか、そこからどういう使い方ができるのかについて議論しよう、というのが私の論文の狙いです。3つ目は国民生活基礎調査と全国家計構造調査(2019年に全国消費実態調査から改称)間での所得分布の不一致についてです。所得分布から見える「不平等度」については最近少し関心が薄れてきているように感じているので、今一度、最新の統計ではどうなっている「家計部門」という2つの柱で構成されています。企 74 ファイナンス 2025 Apr.

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