ファイナンス 2025年4月号 No.713
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50連載海外経済の 潮流 (出所)NY連銀(%)2520151020192021222324253.トランプ政権の政策収入□万ドル未満:□□□□%収入□万~□□万ドル:□□□□%収入□□万ドル以上:□□□%【図表3】クレジットカード返済遅延可能性の平均値コラム 海外経済の潮流 155上述した低所得者層の苦境はクレジットカードの延滞率にも示されている。延滞率は、2010年以来の高水準で推移しており、インフレの長期化とFRBによる高金利政策の影響で家計が追い詰められている状況を示す。【図表3】は、今後3カ月でクレジットカードの返済が遅れる可能性の平均値を示したものであるが、世帯年収5万ドル未満の層は20.3%と、5万~10万ドル(13.4%)、10万ドル以上(7.7%)と比べてもその割合は大きく、コロナ禍前からの上昇率も高い状況となっている。次にトランプ政権の政策が低所得者に及ぼす影響について確認したい*4。まずは低所得者層を中心に苦しめているインフレへの影響について見ていく。トランプ大統領は「掘って、掘って、掘りまくれ」というスローガンを掲げ、原油産出量の増加によりエネルギー価格を低下させることで、インフレを抑えると明言している。しかし、エネルギー価格は、国際的な需要動向や地政学リスク、OPECプラスによる生産量などの影響が大きいことに加え、エネルギー価格が一定程度低下すれば、米エネルギー企業の採算が悪化することで原油産出量の増加に歯止めがかかる可能性も指摘されており、トランプ大統領のエネルギー政策がどの程度国民の負担軽減につながるかは不透明だ。関税政策においては、全輸入品を対象とした10~20%の関税賦課や、中国からの輸入品に対する一律60%関税賦課などの公約を掲げてきた。筆者の執筆時点において、公約に掲げた上記の関税賦課は実施されていないものの、既に「相互関税」の導入や、関税対象製品の対象拡大・免除措置廃止など、第一次政権よりも広範かつ厳格な政策を公表しており、これらの政策が米国のインフレ圧力となる懸念は高まっている。ピーターソン国際経済研究所の試算*5では、公約に掲げた関税政策が実施された場合、2025年のインフレ率は最大+2.0%押し上げられると見込まれている*6。移民政策においても、移民の強制送還等により労働力が減少すれば、労働需給の逼迫によりインフレに繋がることが指摘されている。強制送還の規模は不透明であるが、トランプ大統領は就任直後から強制送還を開始するなど、早くも政策を実行に移していることを踏まえれば、少なからずインフレへの影響はありそうだ*7。これらの政策動向を受けて、足元のミシガン大学のマインド調査では、5年先の期待インフレ率は32年ぶりの高水準に達するなど、消費者がインフレ再燃に身構えている状況が示された。各国の交渉により関税政策が控え目になるとの見方や、移民減少が財やサービスの需要減少を招くことでインフレが限定的になるとの見方もあり、政策によるインフレへの影響は不透明な部分も多いが、市場関係者の見方を総合するとインフレが加速するとの見方は優勢のように思われる。トランプ大統領はトランプ減税*8の延長を公約に掲げている。しかし、トランプ減税は相対的に高所得者層への恩恵が大きいとされる。ピーターソン国際経済研究所の試算によると、公約に掲げる関税政策とトランプ減税を同時に実施した場合、上位1%の高所得者層では税引後所得が1.4%強増加する一方、低所得者層では同所得が▲3.7%減少するとされており、低所得者層への負担は増すと指摘されている。ファイナンス 2025 Apr. 71*4) 執筆時点で把握できた内容を基に記載しているが、政策の先行きについては不確定事項が多い点に留意。*5) トランプ減税の延長を前提とし「全輸入品への追加関税+10%」と「中国からの全輸入品に一律60%賦課」した場合を試算。*6) 各国が報復関税を実施した場合。報復関税がない場合は+1.0%と試算。*7) ロイター「不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ月 増加の見通し(2025.2.22)」*8) 2017年12月に成立した税制改革法(Tax Cuts and Jobs Act)(1)インフレ対応(2)財政政策

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