ファイナンス 2025年4月号 No.713
5/92

ないのでしょうか?」2017年、街頭演説を行う議員の横を通り過ぎる人々の姿を目にし、失礼ながらも思わずその議員に聞いてしまいました。当時18歳で初めての選挙権を得たばかりでしたが、政治・行政と国民の間に横たわる深い溝を痛感しました。この体験が、2018年、政策共創プラットフォーム『PoliPoli』設立のきっかけとなっています。現在、私たちは省庁、自治体、政党などの政策広聴・広報活動をサポートしながら、国民と政治・行政の距離を縮め、「政策共創」の取り組みを続けています。日本は複合的な課題に直面しています。ヒトの面では少子高齢化と人口減少、モノの面では新興産業分野での国際競争力の低下、カネの面では世界における相対的なGDP比率低下の見通し。さらに国際関係においても複雑な局面が続いています。このような状況下で、効果的な政策立案・実行の難易度は格段に高まっているのではないでしょうか。世界のどの国も経験したことのない未踏の領域に踏み込みつつある日本において、もはや政治・行政だけで解決策を見出すことは困難です。私たちに必要なのは、官民共創・政策共創の新たな体制です。政治・行政に加え、民間企業、アカデミア、そして有識者が知恵を出し合い、新しい政策と国づくりを進めていくべきだと考えています。その前提となるのは国民と政治行政の信頼関係です。毎年おこなわれている内閣府の調査によれば、自分の意見が政策に反映されていると実感している国民はわずか3割にとどまります。「政策の関係人口」—政策形成に関心を持ち、何らかの形で参画する人々—を増やすことが急務です。しかし現状は、「政策が一部の人にしか届かない、一部の人しか政策形成に関与しない、政策の意思決定に疎外感を持ち興味関心が薄れていく」という負のスパイラルに陥っています。この課題を乗り越え、政策共創を実現することができれば、日本の新たな民主主義の価値を示すことができるのではないでしょうか。そのために必要な取り組みは三つあります。第一に、わかりやすい政策広報の実現。SNS時代において情報の流れは加速し、SNSや動画など多様な手法を活用しながら、素早く興味を持ってもらい理解できる内容が求められています。第二に、幅広く意見を聴取する姿勢。多くの国民は自分の意見が反映されるとは思っていません。対話を諦めず、継続的に声を拾い上げる努力が必要です。そして最も重要なことですが、第三に、地道な政策形成の継続。当事者等の意見を広く聞き、良い提案は積極的に政策に取り入れていく姿勢が重要です。PoliPoliでも、こうした取り組みの成功事例が生まれています。こども家庭庁立ち上げ期の政策形成においては国民の声を集め、実際に「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」などに反映されました。また群馬県では、PoliPoliのサービス上でNEC社のAI技術を活用し最新テクノロジーを取り入れた政策対話を実現しています。社会課題を単純化して捉え、誰かを批判するのは容易いものです。しかし、社会はそれほど単純ではなく、地道な努力の積み重ねが必要だと改めて痛感しています。私も各分野で地道な努力を行われている方々への敬意を忘れずにいたいと思います。株式会社PoliPoli 代表取締役/CEO伊藤 和真ファイナンス 2025 Apr. 1「どうして街頭演説をし続けなければいけ政策の関係人口を増やす巻頭言

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る