ファイナンス 2025年4月号 No.713
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SPOT 大阪・関西万博についてしているのが実情だ。様々な中長期的な課題に解を見つけていかないと、生活の質の低下は免れない。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」である。「いのち」をキーワードとして、環境の問題、高齢者や障がい者を含む多様な方々が共生できる社会、平和、そして、そうした社会を実現するツールとしての未来社会における様々な技術を紹介、考えることが目的とされている。160近くの世界の国々がリアルに一つの場に集う機会となり、多様な価値観が交流しあい、いのちの在り方を見直すことで未来への希望を世界に示す。単なる展示に限らず、テーマウィークといった枠組みで様々な社会課題について海外の識者も含め議論する機会もある。上記のような日本が抱える諸課題についても、様々な側面から解決の糸口を探るきっかけになろう。例えば、万博で使用するEVバスの多くは中国製であり、空飛ぶクルマについては、日本以外の企業が開発した機体も飛行し、日本勢は主役ではない。他方で、カーボンリサイクルの実証や、IPS細胞を使った臓器の展示など、日本の強みを発揮できる分野も多くある。日本の参加企業や海外の参加国は、こぞってそれぞれの最先端技術を展示・紹介するはずである。海外からは、万博の場に多くのビジネスミッションも訪れる。この機会に日本が世界から遅れている分野については冷静な目で見つめ、しっかりと課題・危機感を共有することが大切だ。そして日本の強みを発揮できる分野については、万博を通じて交流することが可能な海外の企業とも連携しつつ、新たな成長エンジンとする道を探っていくきっかけとすることができれば、必ずや将来の日本経済の成長に貢献する万博となる。ある論文によれば、現在の円ドルの実質実効為替レートを指数比較すると、ちょうど前回の大阪万博が行われた1970年頃と同水準になるという。違いは当時の日本が高成長で上り坂、現在は人口減少に伴い低成長化しているという点だ。こうした中、世界の中での日本の立ち位置を自覚し、今後の戦略を考える契機として、万博という場を有効に活用することが大切である。また、中東やウクライナなど世界各地で紛争が起こる中で、紛争当事国も含め、万博に参加し、リアルに交流を持てる機会は極めて貴重である。今回の万博には、イスラエル、パレスチナ、ウクライナといった紛争当事国が参加している。こうした場を提供できるのも、日本の外交面での強みの一つだと考える。世界の諸課題を議論するテーマウィークでも、平和について議論する場が設けられる。何でもオンラインで済む昨今、このように将来の日本の経済的地位の維持向上、外交的存在感の発揮が、リアルな交流を通じて図ることができるという点を考えれば、今、日本で万博を開催する意義は大きい。万博は決して「オワコン」ではない。何より、上に掲げたような様々な困難な課題を抱えながらも、日本ではすべての国民が治安の良さ、一定の生活水準を享受できており、長期にわたる国際イベントを開催できる底力があるということを世界に示す良い機会にもなると考える。オリンピックは東京で2回実施され、万博は大阪で2回目ということになる。やはり上方は昔から文化芸能の中心地、坂東は武者たちの活躍する場でスポーツということなのだろうか。大阪関西地区は古くから電機、製薬など製造業、特に中小企業の多い土地柄であることを考えれば、上記のように万博で様々な未来の技術が展示され、多くの国のビジネスミッションの来日が予想される中、こうした中小企業にとっては大きなビジネスチャンスとなる。また、大阪は日本第二の都市とはいいながら、その経済的地位は相対的に低下が続いている。東京を中心とする極に加え、やはり大阪を中心とした経済構造が対極として存在することは、災害の多い我が国のことを考えても是非とも必要である。ものづくりを中心とする輸出立国から、インバウンドも含めた多様な稼ぎ方をしていかねばならない我が国の将来を考えても、京都奈良というインバウンド向け最大の観光地を持つ関西地区の潜在力は大きい。大阪・関西万博を契機に関西地区全体が活性化すれば、日本経済全体も活性化するはずである。予定されるイベント等の内容にも人形浄瑠璃、吉本興業パビリオン、宝塚など多くの関西発祥の文化が含まれており、大阪関西で万博を開催する意義は大きいと考える。なお、「食」も大阪・関西万博の目玉の一つである。私も大阪に住むのは初めてだが、上方の「だし文化」の影響か、飲食店の味は良く、客の評価も厳しいのでファイナンス 2025 Apr. 39なぜ大阪・関西か

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