SPOT公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 副事務総長・最高財務責任者 小野 平八郎(以下、「大阪・関西万博」という)が開催される。米との技術や生産能力の差を再認識した大久保利通が、日本の技術や文化の水準を向上させる殖産興業を目的として実施したと言われる。それから約100年後の1970年、高度成長の真っただ中で、アジア初の万博が大阪で開催され、当時の人口の半数を超える6千万人超の観客を集める歴史的イベントとなった。当時の万博の目玉は、米ソの冷戦構造の中で月の石に象徴されるアメリカ館やソ連館の宇宙開発関連の展示であった。その後、先進国全般が低成長化する中、万博の主眼も地球温暖化などグローバルな社会課題にどう対応するかといったテーマに移ってきた。開催地も欧米が中心だったが、2010年上海、2021年ドバイ、大阪関西の次の2030年はリヤドと、高成長国か資金を豊富に有する国が多くなっている。こうした中、なぜ今日本で万博を開催するのか。財政事情も厳しく、多くの社会課題を有する日本が今更万博を主催する意味がどれほどあるのか、万博自体、いわゆる「オワコン」ではないのか、着任前は正直そう思っていたが、準備を進め、関係者と様々な議論をするうちに、以下のように考えるようになった。我が国は、(1)世界最速の少子高齢化の進展、(2)世界最悪水準の財政状況、(3)元来省エネ先進国であったが原発事故の影響もあり温暖化ガス削減に高いハードルがある、(4)自動車産業を始めとするモノづくりで成長を確保してきたが、EV市場には乗り遅れ、電機、鉄鋼といったかつての主要産業の世界的地位は凋落し、ITなど先進産業には乗り遅れている中で、成長のドライブとなる産業を見つけ切れていないこと、などなど、まさに課題先進国である。実質賃金は長期にわたって伸び悩み、貿易収支の黒字が縮小する中、資本収支で経常収支の黒字を維持(かつて稼いだ遺産で食いつないでいる)し、それがゆえに可能となる大量の国債発行による財政の下支えで国民の生活の質を維持 38 ファイナンス 2025 Apr.今なぜ日本で万博か本年4月13日から10月13日まで、半年間にわたり大阪の夢洲(ゆめしま)で2025年日本国際博覧会登録博と言われる最も本格的な万国博覧会であり、日本で開催されるのは2005年の愛・地球博(愛知県)以来20年ぶり3回目となる。私は2023年9月から日本国際博覧会協会に派遣され、万博開催のお手伝いをしている。財務省で30余年にわたり主として財政政策に携わってきたが、万博とは全く無縁で関心もなかったというのが正直なところ。半世紀前の大阪万博に親が行ったという話を聞いたことはあるが、愛知万博の時は万博が開催されているという記憶すら殆どない。大阪・関西地区に住むのも初めてだ。そもそも高度成長期の日本ならともかく、「今、なぜ日本で万博を開催する必要があるのか」ということにすら納得しないまま、仕事を始めたというのが実情だ。万博の歴史を紐解くと、もともとヨーロッパで19世紀後半に始まった(1851年のロンドン万博が最初の国際博覧会と言われる)。産業革命を経て市民社会が確立し、人類の活動がグローバルになった時代で、多くの新しい科学技術や世界各地の文化を一堂に集めて多くの人々に周知するという趣旨であった。日本からも1867年のパリ万博に徳川幕府などが出展し、渋沢栄一が随行したのは有名な話だ。日本の様々な美術品や鎧兜などが出品され、ちょんまげ姿の日本人と相まって人気を集めたという。当初の開催国は欧米のいわゆる「列強」が中心で、万博の開催が国力の誇示という面もあったと考えられる。明治初頭1877年の日本で、日本勧業博覧会が開催されたが、これは1873年のウィーン万博に明治政府として初めて参加し、欧大阪・関西万博について
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