1.1 現行制度の概要と課題SPOT国際局調査課投資企画審査室 課長補佐 中村 優志・須納瀬 史也国際局調査課投資企画審査室 国際係長 宮島 優一郎国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大している。こうした中、安全保障の裾野が経済領域に拡大するのに伴い、国の安全等に係る産業の生産基盤及び技術基盤や技術・情報、国の安全等のために必要なサービス等の安定供給の重要性が拡大しており、それらの流出・毀損防止措置を講じることが、我が国の安全保障上、極めて重要な課題となっている。対内直接投資等の文脈においても、外国投資家が株主権限等を背景に投資先の本邦企業から技術・情報を流出させるおそれや、国の安全等に係る産業やサービス等の毀損のおそれが顕在化するなど、経済安全保障上の懸念が高まっている。こうした時流に早急に対応するため、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)における対内直接投資等に関する手続等を定めた「対内直接投資等に関する政令」及び主務省令、告示の一部を改正し、こととなった。本記事では、政省令改正の内容について紹介するとともに、安全保障に関する当局の取組の説明および透明性確保のために昨年初めて公表した投資審査制度にかかるアニュアルレポートの内容についても触れたい。*1外為法では、対外取引自由を原則としつつ、外国投資家が行う対内直接投資等のうち、国の安全等の観点から指定されている業種(指定業種)に係る一定の類型の取引や行為について事前届出を求め、審査することとしている。当該制度の目的は、対内直接投資等を介し、国の安全等に係る産業の生産基盤及び技術基盤の維持や技術・情報の流出の阻止、必要な財・サービスの安定的な供給の維持に影響を及ぼすおそれのある場合に勧告・命令等の措置を講ずることで国の安全等を確保することにある。これにより「対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持」という法目的を達成するものである。事前届出がなされた後は、国の安全等の観点から審査を行い、国の安全等に係る投資等に該当すると認める場合には、所定の手続を経た上で、対象となる投資等について、内容変更や中止の勧告・命令を発令する。また、当該勧告・命令に違反する場合には、株式売却等の措置命令を発令することが可能となっている。なお、当該制度では、健全な経済活動を促進する観点から、外国投資家が発行会社の秘密技術関連情報にアクセスしないことや役員に就任しないこと、事業の譲渡・廃止を株主総会に提案しないこと等の基準(免除基準)を遵守する場合には、一定の投資について事前届出の免除が認められ得る。ただし、この免除制度の適用関係については、投資家の属性と投資先業種の属性との組合せで適否が分類される。例えば、外国金融機関はすべての指定業種に係る対内直接投資等で免除制度が利用できる(包括免除)。その他の一般投資家については、指定業種のうち、国の安全等に係る対内直接投資等に該当するおそれが大きい業種として指定される特定業種(いわゆるコア業種)への投資等について、議決権等の取得比率が10%以上となる場合には免除の利用ができない他、10%未満であっても、上記の免除基準に要件を上乗せした基準を遵守しない2025年4月4日に公布、同年5月19日に施行される 30 ファイナンス 2025 Apr.*1) 本稿のうち、意見にわたる部分は個人の見解であり、組織を代表するものではない。はじめに外為法に基づく対内投資審査制度の近況―直近の政省令改正およびアニュアルレポートの発行について
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