SPOT*24) https://www.fsa.go.jp/singi/mdth_kon/siryou/20060327/03-4.pdfで、発行体と投資家の間に証券会社が立つことで、両者が合意できるアップ率が探られるというものです。日本企業の出すCBは、CBファンドやヘッジファンドなど海外の投資家が購入することが多いのですが、そういった投資家は自分たちが考える望ましいアップ率をすぐに計算できるようなツールを持っているのが典型です。本稿で紹介したような様々なオプションの価値を、実際にどのように計算するかは非常に技術的なので省略しますが、関心がある方はオプションの教科書を参照してください。なお、CBの価値にはオプション以外の要因も影響を与える点に注意してください。例えば、本稿では実際に発行されるCBを考え、クーポンをゼロとしましたが、もしCBにプラスのクーポンを付した場合は、CBの価値を上げ、アップ率を上げることに寄与します。 28 ファイナンス 2025 Apr.MSCBは2005年、ライブドアがニッポン放送を買収するため、800億円のMSCBを発行したことが大きく報道され、これを契機に世間での認知があがったという印象です。一方で、MSCBそのものは新聞などでその副作用が指摘されることが多い点も事実です。2000年代にはMSCBが発行されることが多かったものの、株価が低下することで、株式総数が大幅に増加するということがありました(株価が低下し、転換株式数が増え、さらに株価が低下するというスパイラルもしばしば指摘されました)。実際、金融庁の資料では、CBのデメリットとして「転換価額が下方修正されると、株式転換したときに得られる株式数が増加するため、株式の希薄化(一株当りの価値の低下)が進み、既存株主の利益が損なわれる」と指摘されています*24。これに加え、CBの引受先となった証券会社などによる空売りなども問題視されました。なお、筆者の理解ではMSCBは第三者割当形式で特定の投資家(証券会社を含む)が割当てを引受ける形が一般的です。まずはMSCBの商品性を説明します。例えば、ある会社が100億円分のCBを発行して転換価格が1,000円だったとしましょう。その後、株価が下がり、800円になったとします。通常のCBでは転換価格は1,000円のままですが、MSCBでは、転換価格がその時の時価である800円へと修正されるというのが、基本的な商品性です。MSCBの重要な特徴は、上述のとおり、転換価格が修正される可能性があるため、株価が低下することにより、発行される株式総数が増えるということです。「基礎編」で議論したとおり、5年後、もし株価が転換価格である1,000円を超え、CBの保有者が権利行使した場合、CBの保有者には、100億円÷1,000円=1,000万株が交付されることになります。これは1株1,000円の場合、1,000万株発行すればCBの元本に相当する100億円を調達できるという考え方です。もっとも、前述の通り、MSCBでは転換価格が下方修正される可能性があります。例えば、株価が下がり、転換価格が500円へ下方修正されれば、100億円÷500円=2,000万株という形で、転換価格が1,000円に比べて、発行される株数が2倍になります。したがって、発行額が同じ100億円であっても、通常のCBと違って、MSCBであれば発行済み株式総数がどれだけ増えるかに不確実性があり、株価の低下次第では想定以上に希薄化が進む可能性がある商品といえます。これらを受け、2007年に、原則として1か月で転換できる株式数を発行済み株式の10%以内にするといったルールができるなど、一定の規制がなされるようになりました。また、筆者の理解では、この規制改革以降、MSCBの発行は下火になったと理解しています。BOX 2 MSCB(転換価格の修正)これまでCBは転換価格が一定のケースを考えてきましたが、CBの中には、発行後一定期間経過ごとにその時点での時価で算定し直すなど、転換価格が一定のルールで見直される条項が付されているものがあります。このCBを「転換価額修正条項付転換社債型新株予約権付社債」といいます。英語ではMoving Strike Convertible Bondと呼ばれ、MSCBと略されます。
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