ファイナンス 2025年4月号 No.713
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SPOT 交付現金交付株式オの価値交付財産(各社債の額面金額)(出所)各種資料より筆者作成転換価額金額図表7 ソフト・マンダトリー条項のイメージ転換社債入門株価先ほどと同様、読者は発行体の財務担当者であり、増資を達成したいと考えているとしましょう。現在、株価が120円である中、読者は転換価格が150円のCBを30億円発行しています。その後、株価が低下していき、満期に100円になってしまったとします。この場合、満期での株価は転換価格より低いため、このままだとCBは株式に転換されません。しかし、読者としては自己資本を増やすため、ソフト・マンダトリー条項を入れていました。この場合、発行体はどれだけ現金を払わなければいけないでしょうか。まず、発行体がCBを株式に転換した場合、前述のとおり、転換価格は150円なので、30億円/150円=2,000万株得られることになります。今回の場合、満期時の株価は100円なので、株式に転換した場合、CBの保有者が得る価値は、100円×2,000万株=20億円になりますが、これはCBの額面である30億円を下回ります。このままだと、権利行使せず30億円の現金を受け取ったほうが、CBの保有者としてはメリットがあります。しかし、発行体である読者から別途10億円を現金でもらえるなら、CBの保有者としては、株式に転換して20億円得て、さらに現金で10億円得られるので、経済性は同じということになります。そして、ソフト・マンダトリー条項により自己資本を増加させる場合、読者が株式転換のために支払うべき金額はこの10億円ということになります。これは満期に、その時の株価で株式を発行し、現金を追加してCBを償還していることと同じであるため、実質的には現金と株でCBを償還することと同じことである点に注意してください。ソフト・マンダトリー条項のイメージは図表7のとおりです。この図において、交付する株式の価値は、「交付株式数×株価*23」であり、交付現金は「社債の額面金額相当額-交付株式数×株価*23」となります(先ほどの例では、交付する株式の価値は100円×2,000万株=20億円であり、交付現金は10億円になります)。図表7が示しているとおり、株価が下がるほど、その分交付する現金が増えるという仕組みになります。なお、ソフト・マンダトリー条項は、満期時直前のみ行使可能なタイプ(ヨーロピアン・オプション)と、一定期間経過後、いつでも行使可能なタイプ(アメリカン・タイプ)があります。ソフト・マンダトリー条項は上述のとおり、額面金額に足りない部分は現金を加えるため、その経済性は変わらないといえます。もっとも、実際にはアップ率の低下につながる傾向が指摘されます。一方、上述のとおり、株式の発行を促す条項なので、希薄化が進みます。なお、最近のCBには、ソフト・マンダトリー条項はあまり含まれていないとされています。かつてに比べ、最近では資本効率が重要視されるため、希薄化を促してまで自己資本を増やしたい企業が減ってきていることが一因とされています。ここまでオプションの価値の算定に言及してきませんでしたが、実際のCBのアップ率を考える上では、オプションの価値の算定が必要になります。オプションの価値は当該会社の株価のボラティリティやオプションの満期、行使価格(転換価格)の水準などに依存します。ボラティリティは会社ごとに異なりますし、その時の相場にも依存します。また、実際のCBのアップ率の算定にあたっては、本稿で言及した様々なオプションの価値を算出する必要があります。前述のとおり、実際のCBのプライシングのイメージは、クーポンをゼロとし、発行年限を定めたうえファイナンス 2025 Apr. 27*23) この株価は通常、平均VWAPが用いられます。3.3 アップ率とオプションの価値

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