SPOT (4)額面現金決済条項転換価格発行時の株価CB発行時点(注)この図における株価の推移はあくまで一例です。(出所)各種資料より筆者作成繰り上げ償還日株価の推移時間株価与えるため、実際には満期直前に行使できる仕組みが普及しています。図表4 プット・オプションのイメージ転換社債入門発行体としては、このプット・オプションを入れるにしても、CBの発行後ある程度時間が経過してから権利行使できるオプションを入れたいと考えます。なぜなら、すぐに権利行使できるプット・オプションをいれてしまうと、発行後、株価が低下していき、クーポンをゼロに抑えられたとしても、すぐに権利行使されてしまいますから、せっかくゼロ・クーポンで調達できたのに、すぐに返済しなければならないということになります。アップ率と希薄化との関係については、プット・オプションは、投資家が権利行使できるオプションですので、投資家からみてCBの価値をあげる(アップ率を上げる)ことになります。また、このオプションを権利行使した場合、株式に転換がなされないため、希薄化率を下げる方向に寄与し得ますが、そもそも株式に転換できないから投資家がこのオプションを権利行使することもあり、それほど希薄化には影響を与えないとされています。CBが株式に転換される場合、発行体がCBの額面部分を現金で渡すことで、株式の総数が増えることを防ぐ条項もあります。このオプションを額面現金決済条項といいます。この額面現金決済条項は少し複雑なので、ここから具体的に考えていきます。まず、読者がある企業(発行体)の財務担当者であり、現在、株価が120円である中、転換価格が150円のCBを30億円発行したとしましょう。その後、株価が上昇していき、満期に250円になったとします。この場合、満期での株価は250円であり、転換価格より100円高いため、CBの保有者は権利行使をして株式に転換し、これに伴い、発行済み株式総数が増えることになります。具体的には、30億円/150円=2,000万株という形で、株式転換に伴い2,000万株が発行されることになります。「基礎編」で説明したとおり、転換価格が1株150円の場合、2,000万株発行すればCBの元本に相当する30億円分調達できるということが、株式への転換で出てくる株数に関する考え方です。もっとも、発行体の財務担当者である読者は、近年の資本効率の改善を求める声を受けて、株式の希薄化をできるだけ避けたいと考えているとしましょう。そこで、読者はCBの発行当時に、CBの社債部分(額面部分)は現金で返済してもよい、という額面現金決済条項をCBに入れておきました*18。読者はこのタイミングでこの条項を用いて額面の部分を現金で返済しますが、この場合、どのくらい希薄化を防ぐことができるでしょうか。もともとのCBの社債部分の額面金額は、前述のとおり30億円になります。したがって、読者は30億円については現金で返済し、残りの部分について増資をすることで対応することになります。CBの保有者は、通常どおりすべて株式に転換した場合(2,000万株発行した場合)と同じだけの利益が得られるなら、CBの額面部分について現金で返済されてもよいと考えています。まず、CBの保有者が満期時に得られる価値を整理します。CBの保有者は前述のとおり、権利行使をすることで2,000万株得られるので、満期時に株価が250円であることを考えると、CBの保有者は、2,000万株×250円=50億円の価値を有する株式を得られることになります(なお、この50億円に相当する価値を「転換価値」や「パリティ」と呼ぶこともあります)。前述のとおり、CBの社債としての額面は30億円なので、読者は額面である30億円分を現金で返し、残りの20億円分については株式を発行することで対応することになります。20億円に相当する株式数は、満期時の株価は250円であることを考えると、20億円/250円=800万株になります。したがって、CBの保有者に2,000株分を発行するのではファイナンス 2025 Apr. 25*18) 発行体が好きなタイミングで現金で返済するという仕組みもありえますが、すぐに権利行使できるとタイム・バリューがなくなり、アップ率に影響を
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