ファイナンス 2025年4月号 No.713
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SPOT 転換社債入門く、メリットがないと考えるかもしれませんが、転換価格が200円であれば転換される可能性が低く、CBを発行したいと考えるかもしれません。したがって、投資家と発行体が合意できる転換価格は、例えば、150円などといったその中間の値になります。そのため、CBは、発行価額100円*9、そして、期中のクーポンをゼロ*10として、投資家と発行体が合意できる価格である転換価格が決められるという形でプライシングがなされます。そして、100円に対してどれくらい転換価格が高いか、という意味合いで、この比率を「アップ率」と表現します。実際、CBの発行に係る条件決定が公表されるときは、通常、アップ率も記載されます。アップ率は、CB発行時の株価(転換価格を決める際の株価)を用いて下記のように定義できます。アップ率=(転換価格/転換価格決定時の株価)-1例えば、CB発行時の株価が100円であり、転換価格が120円の場合、アップ率は20%になります。転換価格決定時の株価は、ローンチ日及び条件決定日(同日)の終値が用いられます。ファイナンス 2025 Apr. 21門の共管になっていたりします。筆者の理解では、シンジケート部の位置づけは各証券会社で異なるため、その点に注意が必要です。これを具体的に考えます。A社が社債と新株予約権を発行する場合、社債の発行によりクーポンの支払いが発生する一方、A社は新株予約権を発行することで、オプション料を受け取ることができます。CBは、(1)と(2)のセット商品なので、CBのクーポンがゼロになるとは、A社が支払う社債のクーポンの現在価値と、A社が受け取るオプション料が相殺し合う状況と解釈できます。実際のCBには、ソフトコールなど様々なオプションが入りますが、株式に転換するオプションだけが入ったCBを考えれば、(1)と(2)が一致する転換価格を決める形で、アップ率が決定されると解釈できます。したがって、アップ率は、A社が社債を発行した際、どのくらいの金利を払う必要があるか、また、A社が新株予約権を発行した際、どれくらいのオプション料が得られるかのバランスで決まるとも言えます。*9) 実際には発行手数料などがあるので、募集価格は100円以上の値になります。*10) 執筆時点でCBの典型的なクーポンであるゼロを事例として用いています。*11) 実際の証券会社では、シンジケート部とエクイティ・キャピタル・マーケット部がほぼ一体になっていたり、シンジケート部が投資銀行部門とIB部*12) このBOXでは、新株予約権が権利行使されたら、発行体は増資し、キャッシュを得ますが、そのキャッシュを用いて、社債を償還するということを想定しています。もっとも、実際のCBでは、このような取引はなされず、新株予約権が権利行使されたら、CBが株式に転換される点に注意してください。アップ率が決められるプロセス典型的には、証券会社のシンジケート部*11およびセールスを通じて、発行体が受け入れ可能なアップ率にある程度レンジを設けて、投資家が受け入れ可能であるかの調整がなされます。日本企業が発行する円建てのCBは、通常、海外のCBファンドやヘッジファンド等に購入されるため、日本時間の夕方(ロンドン時間の朝)からの数時間でプライシングがなされます。CBのプライシングに係る具体的なイメージは、株式市場が閉じた後、転換社債発行のプレスリリース・臨時報告書が日本時間の夕方に出てきます。それに伴い、アジア・ロンドンから、当該CBのマーケティングが開始されます。例えば、アップ率について、10%から20%などという形で一定のレンジが設けられ、投資家が合意できる価格が探られます。典型的にはロンドン時間の取引期間中(日本時間の深夜くらい)までにアップ率が決定されます。アップ率が決まれば、転換価格が決まるので、潜在的な希薄化率も決まります。それをうけて、先ほど出したプレスリリースに条件が追加され、訂正臨時報告書が翌営業日出てくるという流れになります(その内容はTDnetやEDINETを通じて確認できます)。BOX 1 CBはワラント(新株予約権)と社債の合成「基礎編」で説明したとおり、CBの価値は「CBの価値=社債の価値+株式転換オプションの価値」で決まります。このことは、CBの経済的価値が、社債と新株予約権(ワラント)で合成できることを意味します。例えば、A社がCBを発行する場合、その経済的価値は、A社が(1)社債を発行すると同時に、(2)新株予約権を発行することにより再現されます*12。

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