SPOT 2.3 CBのプライシングのイメージ:アップ率大切なことは、発行体と投資家からみて、CBの発ル・ゲインも狙える商品となっていることといえます。それでは、CBを発行する企業の立場からはどうでしょうか。まず、普通社債を発行する場合、国債の金利以上の金利負担となるところ、CBの場合、クーポンがゼロに設定されることから、発行体はクーポンの支払いを抑えることができます。もし、社債と同じクーポンを支払わなければならないなら、後述する新株予約権に伴うコストを考えると、株式に転換される権利も含むCBを出すメリットがありません。一方で、株価が転換価格を上回ることなく、CBが株式に転換されない場合、満期に100円を返済する必要がありますが、この点は社債と同様です。もし最終的に株式に転換されないとすれば、社債を発行することに比べて、コストを抑えることができます。もっとも、CBを発行した場合、CBを株式に転換する権利は投資家がもっているため、株価の上がり方次第では株式に転換される可能性があります。この場合、転換後は配当を支払う必要が生まれます。また、転換されたタイミングで株式の発行総数が増えることになるため、希薄化(1株当たりの価値)が生じます。したがって、CBの発行時には、希薄化に関して、既存の投資家に対する配慮も求められます。さらに、CBが株式に転換されることで、企業にとって一定の機会費用が発生する点にも注意してください。価が100円であり、転換価格が100円であるCBを読者の会社(発行体)が発行したとしましょう。その後、満期である5年後に株価が150円になったら、投資家はCBを株式に転換するため、CBが株式に転換され、る読者は当初100円しか調達していなかったところ、市場価格150円の株式を1株発行して投資家に渡しています。これは5年後に1株を市場価格で発行すれば、なかったということを意味し、この50円が資金調達の実質的なコストになっているとみることができます(投資家の立場では100円出して、150円の価値を有する株式が得られることを裏側から見ているともいえます)。この機会費用は意外と見落とされがちですが、筆者の意見では、オプションの難しさはこのようなコストなどが見えにくいということにもあります。行・購入に関し、それぞれメリット・デメリットがあるということであり、実際の取引では、発行体と投資家の両者が合意できるようプライシングがなされるということです*7。社債と比べたCBの特徴は、転換価格の水準を調整することで合意を測ることが一般的である点です。CBのメリット・デメリットについて転換価格の観点で整理すると、転換価格が上がれば、転換される確率が低下するので発行体にとって得になりえますが、それは同時に、投資家にとってデメリットになる可能性があります。一方、転換価格が下がれば、株に転換される可能性が高くなるため、投資家にとっては得ですが*8、発行体にとっては発行後の株価が上がるほど実質的な費用が膨らむことから、デメリットが増えることになります。もちろん、実際のCBには、様々なオプションが含められるなど、投資家と発行体のトレードオフはこれほどシンプルなものではありませんが、大切な点は、前述のとおり、転換価格を調整することで両方が折り合えるようにすることです。先ほどの例に戻ります。読者が投資家の場合、現在の株価が100円、転換価格が100円であるところ、5年後、株価が120円などに上がればその分利益が得られますが、仮に転換価格が(100円ではなく)200円であれば転換できず、100円で償還ということになります。後者の場合、5年後に株価が2倍になる可能性は低いと考え、読者は投資妙味がないと考えるかもしれません。逆に、読者がCBの発行体であれば、転換価格が100円ならば、株式に転換される可能性が高「基礎編」で想定したように、例えば、CB発行時の株1株増資されることになります。この際、発行体であ150円得られたにもかかわらず、100円しか調達でき 20 ファイナンス 2025 Apr.*7) 具体的には、証券会社を通じて、アップ率の仮条件の範囲内において、ブック・ビルディング方式により合意できるところで価格が決まります。ブック・ビルディング方式とは発行条件の決定方式の一つです。発行会社は機関投資家等からの意見をもとに価格帯(「仮条件」)を設定、投資家に提示します。その後、発行会社は「仮条件」を基に投資家からの需要を把握し、市場動向にあった発行価格を決定します。ここではブックビルディング方式の説明において下記のJPXのウェブサイトを参照しています。https://www.jpx.co.jp/glossary/ha/394.html*8) ここでは後述する様々なオプションは捨象しています。2.2 発行体の立場から
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