ファイナンス 2025年4月号 No.713
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SPOT 2.1 投資家の立場から東京大学 服部 孝洋*2「転換社債(CB)入門―基礎編―」(服部, 2025a)では転換社債(Convertible Bond, CB)の基本を説明しましたが、本稿では「基礎編」で取り扱わなかったテーマを取り扱います*3。本稿では、まず投資家と発行体の立場からみて、CBがどのような特徴を持つかを議論します。そのうえで、実際のCBに含まれる様々なオプションについて議論していきます。「基礎編」に比べ、本稿は実際のCBを理解するうえで必須となる知識を整理していきます*4。なお、本稿は「基礎編」を前提にします。本稿を読む上でまずは「基礎編」を参照してください。本稿では、CBの有する特徴について包括的に議論する一方で、デリバティブ(特にオプション)やコーポレート・ファイナンスの基本は、前提としています。債券の基本については服部(2023, 2025b)などを参照していただきたいですが、オプションなどの基本についてはデリバティブも含め、これまでの債券入門シリーズで説明しているため、筆者のウェブサイトを適時参照してください*5。「基礎編」ではCBの基本的な商品性について説明しましたが、ここからは、CBについて投資家および発行体の立場にたって、その特徴について考えていきます。例えば、投資家の立場にたった場合、ある商品が魅力的にみえたとしましょう。しかし、発行体の立場にたつと、それは調達コストが高いということを意味します。読者が金融商品を目にした際には、発行体の立場にたって、なぜ発行体はこのような魅力的に見える商品、すなわち、相対的に調達コストが高い可能性がある商品を発行しているのだろうと想像することが大切です。ここでは、まずは投資家の立場からCBのメリットとデメリットを考え、次に発行体の立場からCBについて考えてみたいと思います。読者がCBの投資家だとしましょう。投資家の視点でみると、「基礎編」で説明したとおり、円建てのCBのクーポンは、基本的にゼロになります*6。一方で、CBではなくて、同じ会社が発行する普通社債を買えば利息収入が得られます。投資家にとって、CBを購入するメリットは、株価が上昇したら(転換価格を超える限りにおいて)そのキャピタル・ゲインを得られる点にあります。もちろん、投資家である読者は、CBではなくて、その企業の株式に投資することもできます。株式を保有した場合、株価が上昇したら利益が得られますが、株価が低下した場合、損失を被ることになります。一方、読者がCBを購入した場合、クーポンは得られないものの、株価が下がった場合は株式に転換しなければよいので、満期に元本(ここでは100円とします)が返済されます。したがって、投資家から見たCBの良い面は、クーポンが得られないものの、株価が低下することによる損失を抑えつつ、株価上昇によるキャピタファイナンス 2025 Apr. 19*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者による*2) 東京大学 公共政策大学院 特任准教授*3) 厳密には、転換社債は「転換社債型新株予約権付社債」といいますが、本稿ではシンプルに転換社債と記載します。*4) 本稿で想定するCBは、日本企業が発行する典型的なユーロ円CBを想定しています(ユーロ円債とは、日本外で発行される円建ての債券です)。*5) 下記を参照 https://sites.google.com/site/hattori0819/*6) これまでの日本企業が発行したCBのクーポンがゼロであることが多かったことから、ここではクーポンをゼロとした事例をあげていますが、クーポものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。ンがぜロではないケースも存在しえる点には注意が必要です。1.はじめに2.投資家と発行体からみた転換社債転換社債入門―発展編―*1

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