連載PRI Open Campus 4.低技能移民の経済的統合5.高技能移民の経済的統合としての側面が強いと考えられます。ただし、彼らが高齢化したときに十分な年金を受け取れるかどうかについては不透明です。この点については、今後、より詳細な分析が必要になります。第二グループの移民について、将来、特に老後に厳しい状況に置かれる可能性があるという説明をしました。その理由は、このグループの移民が第二次労働市場に属していると考えられるためです。さまざまな統計データを用いた南米出身移民の就労に関する研究(Takenoshita 2006; Cornelius et al. 2003; 稲葉・樋口 2010)によると、たとえ日本語スキルを習得しても、一度非正規雇用で働き始めた南米移民が正規雇用に切り替えることは非常に稀であることが分かっています。非正規雇用で働き続けているために、リーマンショック時には大量解雇に遭うなど、非常に高い失業リスクにもさらされてきました(樋口 2010)。南米移民に限らず、広く移民について分析したデータを見ても、非正規雇用から働き始めた人が、それを抜け出すことはほとんどありません(永吉 2021)。このため、非正規雇用の移民を今後どのように支援していくのかが、非常に重要な課題になると考えています。「低技能」移民という呼び方をされたとしても、こうした移民は必ずしもスキルが不足しているわけではありません。移民の移住前後の職業状況を比較すると、南米移民は、出身国ではブルーカラー職に就いている割合がほとんどないにもかかわらず、日本では概ね全員がブルーカラー職に従事しているという結果が出ています(竹ノ下 2005)。つまり、南米移民はスキルがないわけではなく、スキルを持ちながらもそれを活用できず、不安定なブルーカラー職で長期間働き続けている状況にあると考えられます。南米移民はリーマンショック時の失業と日本政府による帰国奨励政策の結果、大きく減少しており、現在、日本の低技能職で働く移民の中心を占めているわけではありません。現在の中心は、技能実習生や特定技能の人たちです。技能実習生の労働条件の悪さは制度上、原則として就労先を変更できないことに起因していると考えられます。しかし、特定技能に移行することで、同一職種であれば、勤め先を自由に変えることが可能になります。この制度変更がうまく機能すれば、ある程度安定した地位を得られる可能性があります。特定技能に移行した場合、賃金が改善するのかについては、社人研の是川先生がすでに分析を行っています。その結果によれば、技能実習生は日本人と大きな賃金格差がありますが、同じ職場で特定技能に切り替えた場合、日本人との賃金格差が解消されるという結果が示されています(是川 2023)。一方で、特定技能に切り替えた際に、職場を移動した場合には、こうしたメリットは見られませんでした。少なくとも、同じ職場で特定技能に切り替えた場合には、雇用主に対して「いつでも辞めることができる」というプレッシャーをかけられるようになるため、賃金や労働条件の見直しが行われ、ある程度条件が改善する可能性があります。今後、技能実習制度は廃止され、育成就労制度に変更されることが予定されています。これらの制度変更により、労働条件が改善された場合、低賃金労働者の確保がもたらす技術投資の抑制も緩和されるかもしれません。高技能の移民に関しては、イノベーションをもたらし、経済的にプラスの効果を生み出すことが期待されています。しかし、こうした効果が期待できるのは、高技能移民がその能力を発揮できるような職を得ることが前提です。これは必ず達成できるわけではありません。高技能移民が高い学歴やスキルを持って移住しても、移住先ではそれが正当に評価されず、差別を受けることがあります。例えば、ナイジェリアの名門大学を卒業したとしても、雇用主が正当に価値を認めず、「アフリカ出身だから」という偏見で低く評価することもあります。このように、他国で得たスキルが移住先で十分に生かせないことを、「スキルの移転可能性が低い」といいます。また、移民政策が事前の雇用契約を滞在許可の要件としていない場合、移民は入国後に職探しをしなければなりません。そうした中では、当面の生活を維持するために、どのような仕事でもとりあえず就いてしまうということが起こりやすくなります。ファイナンス 2025 Mar. 81PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 41
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